運動ぎらいのための運動ガイド

フィットネスの基準と業界の戦略

何らかの運動をスルことがファッションになった今日では、街路はジョギングやサイクリングをする人であふれ、人々はフィットネスクラブやヨガ教室に押し寄せ、スポーツ医学者やフィットネスアドバイザー、エアロビックインストラクターなどという新しい職業が脚光を浴びるようになりました。

にもかかわらず、いまだに運動とはスポーツマンがするものだと思いこんでいる人はたくさんいるし、運動をしてはいても、からだに害があるような方法でしている人も少なくありません。運動について語られる情報には、まだまだ混乱したもの、矛盾したもの、役に立たないものが非常に多いのが現状です。

しかし、分別のある適度な運動には確実に素晴らしい効果があります。原因不明の心身の不調を感じていて運動の習慣がない人は、1日10〜20分からだを動かすストレッチを取り入れるだけでもその大きな効果を実感することができます。

遠い祖先の人間にとってみれば、「運動をしに行く」という考えは奇異なものに違いありません。今日までの歴史の大部分は、生きるためにはからだを使い果たすほど動くのが当然であり、じっとしていることが究極の贅沢であるかのような時代でした。生活のための身体活動とは別に、「座ってばかりで運動不足になったから、運動をしなくちゃ」なんてことはまずありませんでした。

しかし今日の社会では、自分の食料を得るために狩猟・漁労・農耕をする人はほとんどおらず、移動するために遠路を歩いたり走ったりする必要も、家を建てたり火を起こすために木を切り倒す必要もなくなりました。ほとんどの人は仕事の時も座り、移動の時も座り、暇な時も座っています。さまざまな懸念や大人の都合によって、かつては外で走り回って全身を使って遊んでいた子どもたちも、現代ではゲームや動画鑑賞など、家の中で座って過ごすことが多くなっています。

フィットネスとは「適応」のことであり、「フィットしている人」とは、環境に適応して、環境からの絶えず変化する要求に対応できる人のことをいいます。からだを動かさない多くの現代人も、安全で快適な環境からの最小限の要求に、立派にフィットしています。たまに階段の上り下りをする、週末に庭の芝を刈る、犬の散歩をする、風呂やトイレ掃除のために腰をかがめるなどの運動をしているのだから、それ以上の運動をする理由も必要もない、という議論を耳にすることもありますが、この議論の弱点は、人間のからだが非常に過酷な環境の中で進化してきたもので、動かすようにできているという事実を忘れているところにあります。動かさなかったら、たちまち衰えてしまうのです。文明社会に拡がっている病気の多くは、実は運動不足から起こっているともいえるのです。

計画的に運動を始めた人の圧倒的多数が長続きしていません。シェイプアップしようと決心した多くの男女を年次会員にして、フィットネスクラブだけが大儲けしています。会員のほとんどは、倶楽部の施設を数ヶ月使っただけで行かなくなってしまうのです。

ペダル踏み運動器やボート漕ぎ機、ダンベルやバーベルなど、室内用の高価なフィットネス器具を買い込む人たちも同様に、その時だけ熱心にやって、あとはクローゼットの中でほこりをかぶっているのが関の山です。

この行動パターンは、減量のためのダイエットの場合とまったく同じです。ダイエットをしようと決心し、最新流行のダイエット法に走り、ダイエットクラブに加入し、誇大宣伝をしているサプリメントやドリンク剤を買い込んだからといって、理想体重に落とすことはできません。一時的にできたとしても維持はできません。それができるのは唯一、食習慣を恒久的に変える決意で臨み、分別のある正しい食習慣を身につけ、それを生涯維持することによってのみです。同じように、からだのフィットネスも、分別のある正しい運動習慣を身につけて、それを生涯維持することによってのみ実現できるのです。

 

知っておくべき運動はたったの2つ

急速に変わりつつある新しい分野のためか、運動生理学者は「どんな運動をどれぐらいすればいいのか」というテーマについて、問題を不必要に複雑にしてしまいがちです。中には6種類以上の運動をすべきであるとして、そのひとつひとつについて細かいやり方を定めている専門家もいますが、初心者が知っておくべき運動の種類は実は2つしかありません。

一つはエアロビック(有酸素)運動、もう一つは非エアロビック運動です。

酸素消費量を増大させることが狙いのエアロビック運動とは、心拍数と呼吸数を上昇させる運動のことで、かなりきつく、ハァハァと息を荒げて汗をかく運動をイメージしてください。必ずしも有料のフィットネスクラブに通う必要はなく、ランニングやウォーキング(強歩行)、サイクリング、水泳、クロスカントリースキー、縄跳び、ダンス、階段登りなど、他にもたくさんあります。

エアロビック運動は心臓、血管、呼吸器系の健康に必要不可欠なものです。それはスタミナを強化し全身の適応度を高め、循環と発汗を刺激して血液の浄化を促し、エアロビック運動をすることによって、力に満ちた充足感を味わうことができます。その理由は、

①エンドルフィンという脳内にできるアヘン様の分子が放出されることで、ハイな幸福感を覚え、不快に対する耐性が高まる。

②カロリーを燃やして過食による器官損傷を回復する。

③免疫系を強化する。

④ストレスを軽減する。

⑤血清コレステロールを低下させる。

⑥神経系をととのえる。

ためです。健康なからだのためにはこれだけの利点があるものを避ける手はないはずなのですが、実際にはそう簡単にはいきません。苦手意識がある以上、いくら良いものだと頭では理解できても心が抵抗しますし、運動という考え方自体を嫌悪することもあります。それは私たちの中にひそむ慣性の原理、つまり怠惰であり、それが私たちに「運動なんかする必要はない」、「運動をする時間がない」と囁くのです。その囁きへの唯一の対処法は、無視すること。もし、耳を貸してしまうとどんな努力も水の泡になってしまいます。

今までの習慣を捨てて新しい習慣を身につけるために最もパワフルな助言は、すでに望ましい習慣を身につけている人とつきあうことです。

人は変わることへの抵抗があるものですが、それは周りの人が変わることへの反発も意味します。あなたが運動の習慣を決意することは、周りの運動の習慣のない人にとっては脅威であり、真剣に取り組めば取り組むほど、特に親しい友人や家族からは、その変化に対する得体のしれない影響を懸念して全力で反対される恐れがあります。

私たち自己防衛軍はその決意を固めた仲間です。毎日フィトネスクラブに行ったり、自宅で1時間もペダル踏みをしなければいけない訳ではありません。心拍が早くなり、呼吸が激しくなり、軽く汗ばむ程度の活動になれば良いので、庭仕事や家事、近くのポストに手紙を出しに行くことだってエアロビック運動にすることができます。初めは5分から、少なくとも週に5日、1回30分のエアロビック運動を習慣にすることを目標に始めてみましょう。時には愚痴や泣き言を吐き出し、お互いに励まし合いながら、健康的に若々しく、いつまでも自分を愉しみましょう♪

 

楽しく習慣づけるには

中にはひとつのエアロビック運動を続けていると退屈になってしまう人がいます。そういう場合には曜日によって、ランニングやウォーキング、サイクリング、縄跳び、ミニトランポリン、ダンスなどのメニューを決めると長続きします。変化をつけることは退屈との闘いに役立つばかりではなく、からだのあちこちを動かすことにも役立ちます。変化に富んだ食事が不要な成分のとりすぎを避け、まんべんなくすべての栄養素をとることに役立つのと同じように、変化のあるエアロビック運動はからだの一部だけの荷重負担から生じる害をを避け、からだの隅々までを必要なだけ動かすことに役立ちます。

多くの専門家が、目標心拍を計算すべきだと主張していますが、そんなことをしていたら運動の楽しみが半減してしまうだけでなく、面倒くさくなって続けられなくなってしまいます。エアロビック運動をしたあとで心拍も上昇せず、呼吸も荒くならず、苦しくも何ともなければそのやり方は不十分ということになります。逆に地面にへたり込んで苦痛に喘ぐようならそれはやりすぎです。

最大の努力目標は退屈しないような工夫をして、エアロビック運動を楽しく継続し、習慣化することです。戸外では興味を惹くような環境の中で目を楽しませること、室内では音楽を活用し、心地よい刺激的なサウンドによってリズムにのることがおすすめです。他にも勉強中の音声やオーディオブックなどを聴きながら行うと、あっという間に30分が過ぎてしまいます。

しかし、いくら楽しく継続しようと努力しても、運動のメリットをいくら説かれても、エアロビック運動をはじめた当初は、やはり嫌気がさすことが多いものです。良い習慣を身につけるにはどうしても時間と忍耐が必要になります。初めは確かに苦しく、時間の歩みがひどく遅く感じられるものです。最初の時期だけは、怠けたがる心に鞭を打ってでも実行に移さなければなりません。よくある落とし穴は、疲れたりやる気がなかったりしたときに、体力がないという理由で運動を何日も休んでしまうことです。

定期的な運動を習慣にしてしまった人ならよく知っていることですが、秘訣は「やる気が体力をつくり出す」というところにあります。疲れたときは体力が戻ってくるのを待つのではなく、やる気を奮い起こして体力をつくり出すことが大切です。やってみればすぐに分かります。とにかく、やってみることです。

運動などする時間がないと囁く声が聞こえることもありますが、はじめは何が何でも、ほんの数分であっても継続することです。定期的な運動を継続しているうちに体力も気力も充実してくるので、仕事の効率も良くなり、結果的に時間を上手に使って余暇を増やすことにつながります。最初のつらい時期さえ乗り切れば、面倒だったエアロビック運動が楽しくなってくることは、多くの運動の習慣を身につけられた人たちが証明しています。

最初は運動が終わったあとに爽快感を感じるのが、続けているうちに運動中にもその爽快感を感じるようになり、何日も運動をしないと何か物足りない感じになってきます。そうなったら、良い習慣がつき始めた証拠であり、途中でやめてしまう恐れはほとんどなくなったと考えられます。

 

習慣化極上テクニック

運動のメリットや習慣化することの大切さはよく分かったけれど、とはいえ、運動の習慣化はもっとも難易度が高いもののひとつで、挫折しやすいともいわれています。そこで脳の反応を利用します。

条件があれば、脳が勝手に反応する

「腹筋を1日30回やる」というような目標を決めることはよくありますが、実際にこれを欠かさずに実行していくのはなかなか難しいものです。

なぜなら、「いつ、どこで、どういう状況でやればいいか」という部分を決めていないので、脳が反応できないからです。

人間はもともと「敵が現れたら逃げる」、「美味しそうな食べものを見つけたら取りに行く」というように、「ある状況が起こったらこの行動をとる」という生存のために有利な条件×行動をいくつも脳に組み込んで進化してきた生き物です。これを『If then ルール』といいます。簡単にいえば、「Aが起きたらBをする」、「Aの状況に陥ったらBをする」というように、やるべき行動とそれを行う条件をセットにするのがIf then ルールの特徴であり、人間が無意識に使っているシステムの中でも、脳が一番理解しやすい文法なのです。

人間の脳は、その進化上身につけた性質により、「Aという状況の場合にはBをする」というIf then ルールの形で命令をしておけば、条件反射的にやるべきことを思い出して続けていくことができるという訳です。

効果量の驚異的パワー

このようなノウハウがあることを知っても、ノウハウコレクターになるだけで実際の行動につながらない場合がありますが、このIf then ルールには、試さないことがあり得ないほど、日常的な有効性が実証されています。

ある理論を実践することでどれくらいの効果を得られるかを数値化したものを『効果量』といいます。『効果量0』は、やってもやらなくても変わらず、なんの影響もないということ。『効果量マイナス1』なら逆効果。『効果量プラス1』なら、その理論は結果と完全に相関しているとみなされます。

この効果量の数値は、「0.3を超えれば試す価値がある」、「0.5を超えればかなり効果的だと考えられるので絶対にやるべき」というのがおよその判断基準になります。

たとえば瞑想は続ければ続けるほど効果量が大きくなりますが、それでも効果量は0.36ぐらいです。世の中にはいろいろな心理テクニックがありますが、効果が高いといわれて人気があるものでも0.5を超えるものはあまりありません。

ところがこのIf then ルールは、ニューヨーク州のピーター・ゴールウィッツァー博士のメタ分析によると、ダイエットや貯金などさまざまな目標の達成率に対する効果量はなんと0.65、使い方によって最大で効果量0.99にまで達することが分かりました。

効果が高いと実証されている心理テクニックの2倍以上にもなるのですから、やらない選択など考えられません。

たとえば、腹式呼吸による深呼吸は、気持ちを落ち着けて、何かに集中するのに良いということが分かっていますが、ただ良いと分かっているだけでは日々の習慣にするには不十分です。深呼吸は本来いつ行っても効果がありますが、習慣化することを考えるならば、「会社について仕事を始める前に2分間深呼吸をする」、「上司に嫌味を言われたらそのあと2分間深呼吸をする」などと決めておくのが有効です。日常生活の中でどのような条件が起こりうるのかを考えることで、無理なくいくつものIf then ルールによる習慣化が可能になります。

効果的な条件づくり

If then ルールでは、どういう場合にその行動を行うか、つまり「If条件」をうまくつくれば目標が達成しやすくなります。効果的なルール作りのためには、まず、自分が1日にどんな行動をとっているかを把握する必要があります。たとえば、「今朝、冷蔵庫を開けたらブロッコリーが余っているのに気づいてたくさん食べた」、「上司に嫌味を言われたあとに帰宅して、お菓子を焼け食いしてしまった」などというように、いいことも悪いことも「日記」のように書き出していきます。これを2週間位行い、「自分を取り巻く状況を可視化」してしまうと、If条件が作りやすくなります。

ポイントは、なるべく毎日起こる条件を選ぶことです。そのうえで、できれば「毎日決まった時間」に行えるようにしていきます。つまり、その条件と行動が起こる状況を固定するわけです。同じ時間に、同じことを、同じくらいの強度で同じように繰り返したほうが習慣はつきやすいということがわかっているからです。

私の場合、朝起きたらレモンとライムの絞り汁、リンゴ酢、カイエンペッパーを入れた冷たい水を飲み、鼻うがいや20分間のオイルプルをした後に30分間トランポリントレーニングを行うことを習慣にしています。さらにその後にコーヒーを飲むことをごほうびとして設定しています。習慣づくりには、ごほうびが設定されている方が効果が高まり、習慣化できる確率が上がるのが分かっているからです。

同様にIf then ルールによって昼食の前に筋トレをすることも習慣化することに成功しました。毎日行っていること、できるだけ同じ時間に行っていること、安定して同じ場所で行われることを起点に組み合わせていくことで、複数の条件を同時に早く身につけることができるのです。

 

 

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