Vol.18 豊衣足食

「質の良い食事、睡眠、水や空気の綺麗な環境が大切なことはみんな分かってる。でも、本当に日々生きるだけで精一杯なところにはまりこんでしまって抜け出せないでいる。支配者たちに生殺与奪の権利を握られ、生かさず殺さずの社会ではギリギリの生活を変えることもできないし、他に奉仕するなんて到底考えることもできずにいる。」

望芽が現代地球人の状況を代弁した。マナスは、

「人と人が分断されているだけじゃない。自分と自分も分断されているんだ。僕たちは魂と肉体と感情の融合体で、感情と思考によって選択を繰り返している。でも幼い頃から入念に刷り込まれたデータはすべて支配者の都合の良い思考を促すようにプログラムされていて、集団生活の中で感情という内なる自分の声に耳を貸すのは大間違い、だって周りのみんなは違う考えなんだからと、目に見えない同調圧力によって攻撃されている。感情やインスピレーションでは違和感を感じていても、非力でちっぽけな存在だと思い込まされている自分の感覚よりも、思考によって権威や権力や大勢の考えを優先してしまう。次第に、役に立たないどころか思考の邪魔になる感情や心の声を無視したり、排除したり、とにかくまったく重要視しなくなってしまった。自分の感情と自分の思考までも分断されたんだ。ただでさえ日々の生活に追われているのに、思考と感情、二つの自分を維持しなければならず、そこでもずっと自分を消耗して、とても精神性を高められる状態じゃなくなった。でも、最近では陰謀論と揶揄されているものの多くが支配者層にとって人々に広く知れ渡っては困るような情報、すなわち真実なのだということが明らかにされてきている。特に世界では勇気ある者の内部告発などによって大々的な目覚めが起きている。目に見えるものすべてが真実というわけじゃない。むしろ目に見えないものや、周到に覆い隠されているものの方が真実だ。多くの人は支配者たちに目を眩まされて、目を逸らされて虚構にどっぷりと浸からされていて、馴染みがない真実を受け入れることができない。感じ取る力は衰え、受け取る準備ができていないんだ。」

と、さらに冷静に地球人の状況について言及した。ここにいる誰もが地球人の現状を再認識していた。

濃い霧が立ち込めていれば互いを識別できないもの。闇に支配されていて、恐怖や不安や怒りに打ち震えているような時には集合的無意識によってそれらが共有され、霧はより濃厚なものとなり、個に分断された心細さに我を忘れて、ぼんやりとでも灯りを放つ存在に吸い寄せられていく。恐怖や不安の闇で目が眩み、人間が本来孤独な存在であり、宇宙の真理や地球に降り立った意図のことなど忘れ去ってしまう。偽の光ルシファーによって大勢が導かれ、同じ行動、同じ思考、同じ解釈を持つ彼らとのつながりに案じてしまうんだ。

何を信じたって、責任を負うのは自分。
そして、何を信じるかを選ぶのは自分。
生命は須く、生まれ、生き、死ぬ。
限られた天寿を、暗闇と光明、どちらの中で過ごすかは自分次第。
でも、内面をじっくり見つめる時間も、思考を深める時間もどんどん失われているのだ。

右京が穏やかで心地良い声によって語り始めた。

「それでも何もできないなんてことはありません。もちろん強制したり押し付けたりすることはできませんが、ただパズルのピースや真実の種の在処を示すことはできるのです。パズルを完成させるか、種を蒔いて育てるかはそれぞれ次第ですが、町を行き交う人々、スーパーマーケットやカフェに居合わせた人たち、同じクラスのみんな。ほとんどの人が善意を失わず真面目に生きているのです。これまでの学校教育や社会経験によってあまりにも偏ったものの見方、考え方しかできなくなっていて、目に見えないものや真実は恐ろしくて危険なものだという洗脳から抜け出せずにいるだけなのです。私たちが、もちろん私たちだっていつ如何なる時も慈愛や善意に満ち溢れているわけじゃありませんが、そういう一瞬一瞬の、世界のすべてが素晴らしく、色鮮やかに感じられて、心が感謝で満たされているほんのひと時に、大いなる大家族、そして地球上で同じ今を共有している同胞みんなで共に平安な世界で幸福に暮らしたいと願うだけで良いのです。みんなで一緒に、晴れやかで清々しく、健やかで平和な新次元の地球に移行できますように、と。集合的無意識に集まった想念の力はとても偉大です。そして、それぞれが内面に目を向けて心で感じ取る力を取り戻し、受け入れる準備を整える。大勢の気付きや目覚めが、行き過ぎた自己中心的な執着や強欲や、非人道的で大いなるつながりを無視した行いをする者たちにも気付きを与えて目覚めさせる。彼らも大いなる大家族の一員であり、集合的無意識の中でつながっているのですから。完全に闇の存在に呑み込まれてしまったような人はいずれ大いなる宇宙の理によって別のどこかで叡智を獲得するまで生涯を繰り返すだけのこと。そうした人たちの蛮行はとても許し難いものですが、そこに引き込まれてはならないのです。

もっとずっと遥か昔、闇の勢力が今よりずっと強大だった頃から、すでに種は蒔かれてきました。ウィ・アー・ザ・ワールド、イマジン、汝隣人を愛せよ、仏陀の教えの中にもピースは数多く散りばめられています。あの頃はまだ大勢の人々が目覚めておらず、心で感じ取ることができませんでした。しかし現代では、多くの人たちがこれらの歌詞や教えに感じ入ることができるようになっています。お仕着せではなく、それぞれが自分で真実を追い求めながら真心で受け入れなければならないのです。遅かれ早かれ変容は完了しますが、それが数年後になるのか、数十年後になるのかは、私たち一人一人にかかっているのです。一方で、いつまでも目覚めず変容についていけず、混乱を引き起こす者の想念が一部に不協和音を来たすでしょう。目覚めたところで真実を受け入れ難い存在は相応しいところに生まれ変わっていくでしょう。地球の存在する銀河系の深淵な闇の存在や氣は、光の銀河連合によってすでに取り除かれつつあります。それに、次の次元にも闇は存在します。闇は光と共に一人一人の中にあり、また新たな気付きや目覚めによって新たな叡智を獲得し、より高次の存在となって一人一人がより高次の闇に立ち向かい、そうやって魂は大いなる宇宙全体の一部として成長を繰り返してゆくのです。」

「大丈夫。信じて、安心してください。深淵な闇は祓われました。地球は安寧幸福な新次元への変容を間もなく完了します。残っているのは我々人間一人一人に蔓延っているささやかな闇のみ。我々地球人が次の次元に進むためには我々の力で立ち向かい、真実の姿を取り戻す必要があるのです。そして、もう大勢の仲間が目覚めているのですから。」

右京の優しい眼差しとハッピーフェイスは、ここにいるみんなの心を温かく包み込み、安心や信頼や感謝、思いやり、多くの人々との平和で光り輝く世界への想念でいっぱいにした。

まずは内面の自分の感情と思考を一致させて本当の唯一無二の自分を取り戻し、生まれ持った才能や意図、そして安寧幸福の世界、宇宙の創造主であることを思い出すこと。社会が変わらなくても、生活が変えられなくても感情や思考の在り方を変えることはできる。誘導や思い込み、圧力、フェイクニュース、他人の価値観や社会の常識への依存から自分を解放しよう。それは自分自身にしかできないことだ。本来の自分を取り戻そう。そうやって互いに自立した存在として、依存ではなく分かち合い、助け合い、支え合い、より豊かな世界を力を合わせて団結して築いていくこと。そのために慈愛や善意や思いやりの想念をできる範囲で集合的無意識に送り続けていこう。

翌日も畑仕事を終えたトライブの仲間たちは手塩に掛けて育てた作物を持ち寄ってコミュニティ・ダイニングに集まった。

ダイニングではすでに、仁が四十八時間、時々脂肪を取り除きながらコトコトと煮込んだチキンのボーンブロススープの濃厚で芳醇な香りが充満していた。ボーンブロスは麺のスープにも、野菜をじっくり煮込んでからミキサーにかけてポタージュスープにしても、あらゆる料理のベースや風味付けにとても重宝する。しかも、正確に作られた(といっても鶏ガラや骨つき肉を皮付きの玉ねぎやニンジン、セロリなどの端野菜、ニンニク、ショウガ、自然塩、リンゴ酢を入れて長時間煮込むだけなんだけども)ボーンブロスには、コラーゲンやゼラチン、グリシンなどの栄養素がとっても豊富で、他にも体に吸収しやすい状態のミネラルやアミノ酸も、腸や肌の健康を促進したり、免疫力や解毒作用、代謝を高めるという体に嬉しい効能がたくさんある。ボーンブロスファスティングは、朝食、または昼食にコールドプレスの野菜ジュースを飲んで、夕食はボーンブロススープのみ。でも驚くほどの満足感と心身の軽さが感じられるようになって、これを週末の一〜二日、毎月一回やるだけでも、大抵の人はデトックス効果を感じることができる。

この日はみんなで、ボーンブロススープを使ってアーユルヴェーダのクレンジングレシピ『キッチャリ』を作った。キッチャリはインドのスパイスをたっぷり使って炊くお粥のようなもので、多種多様なスパイスがそれぞれのドーシャ(体質)を整えるのに役立つ料理だ。ニンニク、玉ねぎ、ニンジン、カリフラワー、コリアンダー、セロリを細かく刻み、オイルで炒めたスパイスが香り立ったら赤レンズ豆や緑豆、米と一緒に煮込んで炊き上げる。スパイスの食欲を誘う香りがたまらない!

たっぷりの新鮮なブロッコリは濃い緑色鮮やかに蒸し上げられ、朝採り卵とオリーブオイルとリンゴ酢で作ったマヨネーズに、すりおろしたニンニクと自然塩を加えて味を整えたアイオリが添えられた。

大量の抗酸化物質やフェノール化合物を含むナスニンなどのフラボノイド、多数のビタミンやミネラルが含まれるジューシーなもぎたてのナスは、オリーブオイルでじっくりと焼かれた後、さいの目切りのトマトを加えてさらに加熱され、フレッシュな作り立てのモッツァレラチーズ、自然塩、フレッシュバジルとともに美しく皿に盛り付けられた。

シンプルな素材の旨味がたっぷり引き出された食卓に、一堂は心身が満たされ、幸せな満足感と感謝の気持ちでいっぱいになった。

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