Vol.15 有為転変

「有害な破壊が必ずしも罰せられるものではありません。破壊が安寧幸福な創造のために気付きを齎し、より大きな全体像や智慧を授けることもあるのです。すべては同じ状態のまま留まることはありません。滞り澱むことのないように絶え間なく変容しているのです。より高次元で流れのバランスを取るためには光と闇、善と悪、破壊と創造は必要なものなのです。囚われるためではなく、それぞれが痛みに気付き、平和に変換する高次の存在となるために。恐れや不安にいつまでも縛られる必要はありません。それぞれがそれぞれのペースで必ず、高い意識レベルに到達するのです。周りと比べたり、指導者のような人のペースに合わせる必要もありません。彼らに従順であるかどうかによって導かれるか導かれないか、そのような恐怖の感情で分断しようとする存在に従うべきではありません。ただ自分自身の真理や宇宙の真理、これまで覆い隠されてきた多元多様な存在や大いなる宇宙の真の在り方に心を開き、自分に受け取る準備ができているかどうかを自分で確かめ、もしも受け取る準備ができていないならばドアを閉めて、もう一度自分の内面をよく見つめて、受け取ることを本心から望んでいるならば、あなた自身の意識がその方向に導いてくれるものなのです。」

「半信半疑な情報に惑わされる必要はありません。知るべき情報は知るべきタイミングで明るみになるのです。自分の内面に集中して意識を高めることに専念してください。証拠や答えなどを追い求めることには意味はなく、それらに何か自分を正当化する要素を期待し、希望を抱かせるまやかしなのです。答えはあなた自身の中にしかありません。どうかこのことを忘れないでください。」

右京の穏やかな語りかけによって、子どもたちは再び賢明さを取り戻した。そうだ、僕たちが自然や地球を敬い、真心を通わせながら土壌と共に育んだ野菜たちと、ここにある野菜とはまったく違う物だ。そして、押し付けたり物理的に人々を変えることは不可能だとしても、僕たちが内面を見つめて精神性を高め、思い出した記憶や取り戻した共通のビジョンを、慈愛や善意を持って地球的集合意識の中に送り続けることはできるし、大いなる大家族の一員として共に幸福な世界を築きたいという光り輝く信念によって、闇を照らすことだってできる。でも、きっと本当はもっと簡単で単純なことなんだ。僕たちが心からの慈愛と共に、楽しみ、喜び、笑い合う姿に引き寄せられる人たちは思っているよりもずっと大勢いるはずなんだ。だったら・・・・

子どもたちは仁と一緒に調理を始めた。自分たちが大切に育てた野菜と、燦然たる太陽や肥沃な大地、恵みの雨に心から感謝し、心から楽しみながら野菜や食材を大切に扱っているのがいつの間にか振動を通じてうっすらと灰色の世界の人々に伝播していた。

みんな仁の料理の完成を心待ちにしていた。しばらくすると辺り一面に美味しそうな香りが充満し始めた。ナスとピーマンは素材の甘みとオリーブオイルと出汁の旨味がジュワッと染み込んだトロトロの煮浸しに、柔らかなアスパラガスのグリルにはピリッとしたニンニクの辛みとレモンの爽やかさが絶妙なアイオリが添えられ、瑞々しくずっしりと熟れたジューシーなトマトは、搾りたてのミルクで作られたモッツァレラチーズと新鮮なバジルとともに盛り付けられた。肥沃な土壌で放し飼いで育てられた地鶏の卵は、ミルキーな出来立ての手作りバターでふっくらと美味しそうな濃いレモンイエローのオムレツに仕立てられた。パンにはじっくりと炒めて甘みを引き出したニンニクとタマネギ、さらにハムとチーズが乗せられオーブンでこんがりといい色に焼かれて、ふんわりと柔らかそうに膨らみ、温かみのある香りを漂わせていた。

トライブの美味しい水、空気、色合いなど自然と調和した生活や、みんなで分かち合いながら楽しむ豊かで健康的な食事によって培われた子どもたちの光明な意識は、灰色の世界の人々の心身に鬱積していた汚れをきれいに洗い流し、感情と思考を研ぎ澄ませていくのを感じさせた。

誰もがカムイたちの野菜には見向きもしなくなり、人々は心も体も満たされ、わずかな量の糧に物質的な量よりも重厚な質の豊かさを感じ、超越した穏やかさに朗らかな笑みを浮かべていた。そして人々はそれぞれの心の中で狂った現実社会を改めて実感し始めていた。ぼんやりと感じていた違和感がはっきりと自分自身に言語化できるものになったのだ。

人々は既得権益や既存のシステムにウンザリしていた。そして情報やデータや見た目の華やかさは支配者たちの懐を潤わせるまやかしなのだと認識した。なぜなら、大勢に貧しさを強いて一部の支配者や権力者が富をこれでもかというほど搾取しているからだ。中身のない空っぽのものを誇大広告で価値があるかのように見せかけて高額で売り払い、支配者たちだけがほくそ笑んでいる。それに大勢の人々が心から笑い合うのを忘れたまま過ごしている。いったい何に急き立てられていたのだろう?狭い世界でわずかな差異を比べて競い合い、人種や国籍や宗教や言語や肌の色なんかで分断させられている。本当はそんなものなど関係なく、すべては一つの大家族なのだ。我々は宇宙の大家族の一員なのだ。

生命を有り難く分かち合っていただく本物の食事は、人々の心身に染み渡り、ほんの一瞬ではあったが、大切なことはただ、誰かの喜ぶことをしたいという真心、自分がされて嫌なことはしないで自分たちの内面を見つめて在りたい姿であろうとするというとてもシンプルなこと。そしてそれぞれの差異が1+1を無限にすることを人々に思い起こさせていた。

晴人たちは、人々の新たな気付きや目覚めを願いながら、地球的集合意識に新たな想念を送るように、それぞれの学びを分かち合った。

「お金がすべての苦しみの根っこにある。だからお金のなかった時代に遡れば人々は平和に暮らせるんじゃないか?と思ったこともあったけど、それはやっぱり非現実的だよね。一部の人にお金や権力が集まるような設定が問題なのであって、お金というシステム自体をもっと透明性が保たれた公平でバランスの取れた設定にすればいいだけなんだよね。お金自体には価値がなくて、お金という共通の概念の便利な道具で欲しいものを手に入れる、欲しいものっていうのも、地球や人類やあらゆるつながりを害さない、本当に必要なものだけに淘汰されて流通しているもので、今みたいに売るために無理やり必要を生み出すようなものではダメなんだ。人や自然や地球やあらゆる存在の調和を考えて、本当に必要なものの精度を高めていく、そのためにもやっぱり慈愛や善意や思いやりが優先されなければならないんだ。」

「それに、守るべきものの存在が仇となることもある。闇の発信する情報やシステムに従うことによって家族や大切なものを守ることになるのだという洗脳は完了しており、結果的に個人の自己中心的な執着は強まっている。社会のルールに従って、物価高や増税にも何とか適応して言われるがままに大人しく支払い続ける。支払えなければそこで脱落するという人生ゲームに無理やり参加させられている人々と、お金や権力に物言わせてルールを掻い潜ったり、自分たちに都合良くより多くのお金や権力が集まるように改変しようとする側に、ここでも分断されている。抵抗する間も与えず、人々に耳を傾けようともせず異を唱える機会を奪う暴政に、もう人々はこれ以上耐えられそうにない。一人一人が自由意志を齎された存在であり、それぞれの選択によって世界や地球や宇宙は成長し、変容していく。私たちは本当は魂や意識そのものであり、多くの人がそのことに気づかないまま融合体や血のつながりに執着して、恐怖や不安や怒りや絶望などの闇に呑まれてしまうと、宇宙全体が闇側に傾いていくことになってしまうんだ。」

と藍田望芽も自分が深めた認識をみんなに共有した。

「ねえ、カムイ。お金や権力がないだけで無意味で無価値な存在だと思い込まされ、それでも生きてていいんだって感じたくて、多くの人が健気に社会の歯車としてでも懸命に働いている。人々には慈愛や善意がきちんと残っている。それでもどうしようもなくて、世界を呪い、終わりを願い、どうにもならない苦しみや恐怖や不安に押しつぶされそうになって、誰かや何かや、宗教に救いを求めることもある。そんな人たちを自分の成功のために貶めて、それで本当に幸せになれると思うの?」

サライは穏やかな眼差しを、同じ色合いを持つカムイの瞳に向けた。

「確かに、この壮大な宇宙の真理に気付き、目覚めるためには幾度となく混沌を極める。それは個人も集団も、国も世界も、地球も例外ではないわ。さまざまな事象に直面し、最初に闇の感情が沸き起こったとしても、それはおかしなことではなく、何者にも責めることはできない。すべては大いなる一つの存在から生まれた一つの大家族というつながりを思い出し、内面に目を向け、耳を傾けて、本心や本音に向き合い、自身や他に感じることについて思考を深めながら光と闇を行き来する中で、光と闇のバランスはあくまでも光を礎としなければ安寧幸福に向かうことはできないのだという真理がようやく少しずつ見えてくるのよ。そこにたとえ目を覆いたくなるような失望があったとしても、私たちは諦めないで辛抱強く、光で照らし続けるべきじゃないかしら?」

「それに、なぜ人類はロボットのような均質性を持って生まれないの?それは、そうした真理に行き着いてそれぞれの凹凸を互いに補い合い、慈愛や善意によって助け合いながら共栄するために他ならないからじゃない?それぞれが生まれ変わりを繰り返しながら叡智を獲得し、潜在的にまったく異なる経験や記憶を持っているからこそ、1足す1には無限の可能性がある。人類が本来齎されたそうした無限の可能性を、最終的にはいついかなる時にも光が闇を上回る選択によって引き出せるようになるためには、さまざまな経験や感情や思考を通じて高次の精神性を備える必要があるのよ。」

サライの語りかけにカムイはゆっくりと大きく呼吸を整えてから応えた。

「人種や文化、宗教、思想の違いによる憎しみや争いは、そのほとんどが首謀者に富を齎している。支配者たちはそうした人の奥底にあるものまで利用して争いや奪い合いを起こさせた。人々を知り尽くし、深層心理にまで入り込んで所属欲求を刺激し、他を区別して争いや戦いを助長した。人種、性別、国、宗教、思想、収入、あらゆる心理作戦によって人々を分断し鈍化させた。彼らの思想は学校教育に巧妙に仕組まれ、人々は彼らの都合の良い時に反応し、機能するようなスイッチが組み込まれている。時には敵対心を煽るような合図によって攻撃的な言動や行動を開始させる。人々は催眠状態のまま間違った敵と戦わされ、消耗させられている。誰もが『自分一人じゃ無力で無価値で何も変えられない』と信じ込まされてきた。さらには権力に楯突いて気付き始めた真理を語れば狂信者扱いをするようにプログラムされている。確かにいずれ大勢の人々が目覚めれば、その時には世界は反転するだろう。でも、それはいつだ?少なくとも今存在している地球人はもう手遅れだ。」

「それは大間違いよ。目に見えないところで思いがけないほど多くの人たちが真理に目覚め始めているわ。ただどうしても表立って声を上げることはできないでいる。そう簡単にしがらみから抜け出すことはできないもの。だから私たちが争いや奪い合い、これ以上の犠牲はもう必要ないこと、そして慈愛に基づいた安寧幸福の世界のビジョンや、大いなる大家族のつながりの記憶を地球的集合意識に送り込み続けるのよ。そして一人一人が自分の真の核心に問いかけ、現状を良しとしていないならば意識的にノーを突きつけるだけでいいの。ダークサイドはそうした大いなるすべてとの意識のつながりを知っていたからこそ、彼らに都合良いシステムを何年もかけて刷り込み続け、手を尽くしてこのシステムをより強固なものにしながら持続してきたの。人々がまだ幼い頃から常識や固定観念やこうあるべきという縛りを課して、そうした虚構に気付かないように、従い続けるように、真実に目覚めないようにしてきたのよ。でもそれこそ私たち一人一人の意識が彼らにとっての脅威であることの証明だし、一人一人が意識レベルで(声高らかに宣誓しなくても)今ある現実の虚構を拒否すれば良いだけなのよ。私たち一人一人が偉大な創造者であり、明るく平安な世界を創り出すことができる、無限の宇宙を創造することができる、何者にも支配されない真の現実を取り戻すことができる。遠い世界で苦しんでいる人を救おうとか、何か大それた偉業をしなければならないなんてことはないの。大家族の一員として純粋な慈愛や善意や慈悲や思いやりの意識を送り込むだけで十分なのよ。あとは、自分や身の回りの家族や友人や大切な人を大切にして生きること。地球や自然やあらゆる生命もすべて私たちとつながった存在であり、大家族であることを認識して大切に思い、共存共栄していくこと。一人一人が真心でただそれを願うだけで十分なのよ。」

カムイの瞳は迷いを湛えていた。本当はすべてがサライの言う通りなのだと分かっていても、期待が打ち砕かれて、再び大きな失望を味わうかもしれないと思うとどうにも耐えられないのだ。しかし、大いなるつながりや地球的集合意識、宇宙における地球の状況をもう少し探ってみるべきかもしれないと、カムイはその場を後にした。

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