脂肪の真実
脂肪の今昔
脂肪も炭水化物と同じく、炭素・水素・酸素だけでできていて、やはりクリーンなエネルギー源です。しかし、脂肪の分子(脂肪酸)は3つの元素が集まってできるときに炭水化物よりも多くのエネルギーを必要とするため、燃焼するときにも多くのエネルギーを放出します。脂肪はもっとも高カロリーの栄養源で、1グラムあたり9カロリーという、炭水化物やタンパク質の2倍に相当するエネルギー源です。植物は炭水化物から脂肪をつくり、太陽エネルギーを長時間貯えるために使っています。脂肪は種子に貯えられていることが多く、光合成によって自力で糖分がつくれるようになるまでのあいだ、胚を育てるための濃縮栄養素として備蓄しているわけです。動物は炭水化物、および植物の脂肪や他の動物の脂肪から、独自の脂肪をつくっています。
人間には脂肪の多い食物を好む傾向があります。甘いもの好きに加えて『油っこいもの好き』の人がたくさんいますが、これもまた、人間の進化の遺産だと考えられます。脂肪は濃縮エネルギーだから生存に都合がよいのです。飢餓線上の生活や空腹と満腹を不定期に繰り返すような生活を送る人間にとって、特に大型獣の猟に成功したときなど、特別の機会にしか脂肪にありつけない祖先の時代には脂肪への欲求は当然のことだったのです。
しかし、脂肪も糖分と同じで、飽食の時代となってしまった現代では、その脂肪への欲求と摂取量が命取りなっていることは、疑いの余地がありません。高脂肪食は寿命を縮め、心臓血管疾患、糖尿病やガンなどの深刻な病気の主な原因となっています。健康を左右するものとして、脂肪の摂取量だけでなく、脂肪の種類や調理法も重要な要素となっています。
そのあたりの知識は非常に多くのことが誤って伝えられています。
脂肪の種類
まず、脂肪が多く含まれている食物の品目です。高脂肪食品には種子類(ゴマ、ヒマワリ、トウモロコシ)、ナッツ類(特にクルミ、マカダミア、ココナッツ)、特定の豆類(ピーナッツ、大豆)、特定の果物(オリーブとアボカド)、多くの獣肉(ビーフ、ポーク、ラム)、鳥類(ガチョウ、鴨、皮付きの鶏肉)、かなりの魚類(たとえばサケ、サバ、イワシ、ニシン)、チョコレート、バター、クリーム、全乳製のチーズなどがあります。もちろん調理された料理の多くには脂肪がたくさん含まれています。材料に高脂肪食品を使い、調理にもそれらを加えているからです。全カロリーの40~50%を脂肪から摂っている人が大勢いますが、それはとても健康な生活とはいえません。
同じ脂肪でも、どの脂肪酸が主体になっているかによって、組成に大きな違いがあります。飽和脂肪と不飽和脂肪ということばは耳にしたことがあるかと思いますが、それらは脂肪酸の化学成分を示す言葉で、分子の連鎖を構成する炭素原子の余った手が残らず水素分子と結ばれているかどうか、つまり飽和しているかどうかを表しています。
だからといって完全な飽和から完全な不飽和までの連続した配列の、どの位置にどの脂肪がくるのかを調べるために化学者になる必要はありません。日頃口にしている脂肪分を冷蔵庫に入れればすぐに分かります。飽和脂肪は温度が下がると固まって不透明になります。溶け出す温度が高ければ高いほど、飽和の程度も大きいということになります。私たちの食生活の中では、動物性脂肪が飽和脂肪の代表です。ベーコンの脂肪が冷蔵庫の中でどのようになっているのかを考えれば分かります。植物性脂肪にも飽和脂肪があります。ココナッツ油とヤシ油が有名であり、ココナッツ油は室温でも固まっています。
配列の反対側にくるのが不飽和脂肪で、多くの植物油がここに含まれます。冷蔵庫の中でも透明でサラサラしています。食用油の中ではサフラワー油が(紅花油)が一番不飽和状態が盛んです。サフラワー油から順番に、ヒマワリ油、コーン油、大豆油、綿実油と、少しずつ飽和性を帯びてきます。配列の中央に来るのは、分子の連鎖の中で一箇所だけ飽和していない脂肪酸からなる油で、単(一価)不飽和油と呼ばれています。他の油に比べるとオリーブ油とキャノーラ油(菜種油)が単不飽和性が強く、ピーナッツ油がそれに続きます。オリーブ油は冷蔵庫に入れると、ドロッとして半透明になります。その状態でもビンから鍋に注げないことはありませんが、非常に苦労するでしょう。キャノーラ油は冷やしても透明のままで注ぎにくくはなりませんが、明らかに粘稠度を増しています。
<飽和脂肪酸一覧>
一般名 |
IUPAC(国際純正・応用化学連合)名 |
酪酸 |
ブタン酸 |
カプロン酸 |
ヘキサン酸 |
カプリル酸 |
オクタン酸 |
カプリン酸 |
デカン酸 |
ラウリン酸 |
ドデカン酸 |
ミリスチン酸 |
テトラデカン酸 |
パルミチン酸 |
ヘキサデカン酸 |
ステアリン酸 |
オクタデカン酸 |
アラキジン酸 |
イコサン酸 |
ベヘン酸 |
ドコサン酸 |
リグノセリン酸 |
テトラコサン酸 |
<一価不飽和脂肪酸一覧>
一般名 |
IUPAC(国際純正・応用化学連合)名 |
カプロレ酸 |
Dec-9-エン酸 |
ラウロール酸 |
(Z)–ドデック-9-エン酸 |
ミリストレイン酸 |
(Z)–テトラデカ-9-エン酸 |
パルミトレイン酸 |
(Z)–ヘキサデカ-9-エン酸 |
オレイン酸 |
(Z)–オクタデカ-9-エン酸 |
エライジン酸 |
(E)–オクタデカ-9-エン酸 |
バクセン酸 |
(E)–オクタデカ-11-エン酸 |
ガドレイン酸 |
(Z)–イコセン-9-エン酸 |
エルカ酸 |
(Z)–ドコス-13-エン酸 |
ブランジン酸 |
(E)–ドコス-13-エン酸 |
ネルボン酸 |
(Z)–テトラコス-15-エン酸 |
<多価不飽和脂肪酸一覧>
一般名 |
IUPAC(国際純正・応用化学連合)名 |
リノール酸 |
(9Z、12Z)–オクタデカ-9,12-ジエン酸 |
α-リノレン酸 |
(9Z、12Z、15Z)–オクタデカ-9,12,15-トリエン酸 |
γ-リノレン酸 |
(6Z、9Z、12Z)–オクタデカ-6,9,12-トリエン酸 |
コロンビン酸 |
(5E、9E、12E)–オクタデカ-5,9,12-トリエン酸 |
ステアリドン酸 |
(6Z、9Z、12Z、15Z)–オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸 |
ミード酸 |
(5Z、8Z、11Z)–イコサ-5,8,11-トリエン酸 |
ジホモ-γ-リノレン酸 |
(8Z、11Z、14Z)–イコサ-8,11,14-トリエン酸 |
アラキドン酸 |
(5Z、8Z、11Z、14Z)–イコサ-5,8,11,14-テトラエン酸 |
エイコサペンタエン酸 |
(5Z、8Z、11Z、14Z、17Z)–エイコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン酸 |
ドコサペンタエン酸 |
(7Z、10Z、13Z、16Z、19Z)–ドコサ-7,10,13,16,19-ペンタエン酸 |
ドコサヘキサエン酸 |
(4Z、7Z、10Z、13Z、16Z、19Z)–ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸 |
参考:Akoh C.C. and Min D.B. “Food lipids: chemistry, nutrition, and biotechnology” 3th ed. 2008
Chow Ching K. “Fatty acids in foods and their health implication” 3th ed. 2008
脂肪はすべて脂肪酸の混合物なのでどちらが良いということではなく、『飽和』『不飽和』というのは、主体となっている脂肪酸の状態を表しているにすぎません。明らかに飽和脂肪であるビーフの脂肪やラードでも、かなりの不飽和脂肪酸を含んでいますし、単不飽和油であるオリーブ油にも14%もの飽和脂肪が含まれています。
参考:文科省|脂肪酸成分表編 第2章 第1表 PDF|油脂類
この50年以上の間に、飽和脂肪の多い食生活の危険性を裏付ける証拠はすっかり固まってきました。研究の糸口となったのは第二次世界大戦のさなか。西ヨーロッパ諸国は戦争の影響で、肉・卵・バター・チーズなどが急に手に入りにくくなりました。すると、それらの食物の消費が落ちるに従って、虚血性心疾患による死亡率が低下し始めたのです。戦争が終わり、脂肪の消費が通常に戻ると、虚血性心疾患による死亡率は戦前の水準に戻りました。飽和脂肪を多く摂ると動脈壁にコレステロールが沈着して動脈硬化になるという説は、医学的事実として不動のものとなりました。西洋社会では、生きていればいずれは動脈硬化になるものと考えられるようになりましたが、実際はそうではありません。
動脈硬化は生活病です。特に、飽和脂肪が多い食生活を続けることに関係があり、肉、全乳、全乳製品、バター、ラード、ビーフ脂肪、ココナッツ油、ヤシ油などを使った料理を好んで食べる生活が動脈硬化を促すのです。心筋梗塞で若死にしないための最良の方法は、生活からそうした食物を追放すること、またはごくたまにしか食べないことです。「現代的」な食生活をしている人の多くは、若い頃から動脈硬化が始まります。ベトナム戦争で戦士した18歳~19歳の兵士の解剖所見では、そのほとんどのケースに冠動脈のコレステロール沈着が確認されています。
飽和脂肪の害作用が広く知られてくると、医師や栄養士は配列の反対側の油を勧めるようになり、その結果、食品産業が不飽和脂肪酸製品の宣伝を始め、食用油としてはほとんど知られていなかったサフラワー油が脚光を浴びるようになりました。研究結果でも、飽和脂肪食から不飽和脂肪食に変えると血清コレステロールが低下することが立証され、単不飽和脂肪は中間的で、コレステロール値や心筋梗塞のリスクに影響しないと考えられるようになりました。
ところが残念なことに、不飽和脂肪にも、まだあまり知られていない、それなりの危険があります。脂肪酸の連鎖が不飽和であることの特徴は、不安定で非常に酸化しやすいというところにあります。特に空気中で熱を加えた場合、または空気にさらしておいた場合はすぐに酸化します。そして酸化によって生じたきわめて反応性の高い分子は、DNAをはじめとする、細胞の重要な構成物を損傷する恐れがあります。そのため、不飽和脂肪の多い食生活はガンになるリスクを高め、老化と組織の変性の速度を早め、炎症性疾患や免疫疾患を悪化させる恐れがあります。
脂肪が酸化すると危険な成分を生じると同時に悪臭を生じるため、においを嗅ぐことによって変質に気づくことができます。ほんのわずかでも臭う油脂は、決して口にしてはなりません。ナッツ類、ポテトチップ類、クラッカー類など、脂肪の多いものを食べるときは、いきなり口に運ばずにまずにおいを嗅いでみてください。密封されたスナック食品は添加物で臭気を消してあっても、わずかな臭気が機密包装の中で濃縮されているため、包装をひらいた瞬間に臭うのですぐに分かります。不飽和性が強ければ強いほど、空気にふれると早く酸化して悪臭を放ちます。亜麻仁油は非常に不飽和性が強く、急速な酸化によって化学構造に変化が生じ、乾燥して固くなります(それが油性ペンキの基材に使われる理由です)。サフラワー油は他の食用油に比べてはるかに早く酸化してしまいますが、最近になって食用油として脚光を浴びる前、サフラワー油は亜麻仁油と並んで「乾性油」に分類されていたことが判明しました。
飽和脂肪も不飽和脂肪も有害だとしたらどうすれば良いのでしょうか?まず最初に打つ手は、脂肪の種類を問わず、総摂取量を減らすことです。心臓血管疾患の方が、全摂取カロリーのうち脂肪のカロリーを10%に制限するという、かなり厳しい食事が驚くほど効果がありますが、多くの人はそんな厳しい制限にはついていけないでしょう。20~30%の間なら、食事の楽しみも味わいながら病気のリスクを大幅に下げることができます。それは、揚げ物、全乳製品、肉、ナッツ類、マヨネーズ、サラダドレッシング、濃いソースやデザート類は大幅に減らすことを意味しています。
それはまた、店で買う食品の脂肪含有量の実態に注意を向けるべきであることも意味しています。商品のラベルは実はあまり役に立ちません。なぜなら、ラベルにはその商品の総カロリーに占める脂肪の割合ではなく、脂肪の重量が表示されているからです。例えばあるアイスクリームのラベルの栄養成分には、「1個(110ml)当り、302キロカロリー、タンパク質4.7g、脂質23.0g、炭水化物19.3g、ナトリウム82mg」と書かれていますが、これをパーセントで計算してみると、脂肪は1gあたり9カロリーなので、このアイスクリームの脂肪は23.0g×9カロリー207カロリーであることが分かります。脂肪のカロリーが全体に占める比率を出すには、207を全カロリー302で割って100倍すれば良いので、約68.5%。全カロリーのうちの脂肪の比率を30%以下にしようとしている人にとっては、脂肪が68.5%のアイスクリームを毎日食べるわけにはいきません。
もう一つ別の例をあげると、自然食品店で買った「ナチュラルチーズ味のポップコーン」425g入り(1人前28g)の1人前は160カロリーで、脂肪は12g。12×9で脂肪が108カロリーあることが分かります。160で割って100倍すると脂肪の比率が出ます。結果は67.5%。自然食であっても、この手のスナック菓子は油断なりません。
バター抜きの良質のパンや、ショートニングなしで作ったパンの美味しさに気づくこと、油を使わずに焼いた魚や皮をむいた鶏肉を食べること、脱脂乳からつくった乳製品を使うこと、悲壮感なしに脂肪分を半分か1/4に減らすこと。これらは食生活を少しずつ変えていくことで充分可能になります。実際にやってみると、食物の中の脂肪分ではなく、食物そのものの香味の豊かさを味わう味覚が育ってきます。一度食習慣にそのような健康的な変化が起これば、大部分の人がいかに大量の脂肪を食べているか、レシピの脂肪の量がいかに多いかを驚きの目をもって眺めるようになるでしょう。
動脈爆弾レシピ
たとえば、以前あるところで見たこちらのレシピ
■キャンディエッグ
1/2カップのバターをクリーム状のなるまでかき混ぜる。それにヘビークリーム小さじ2杯、レモンジュース小さじ1/2、バニラエッセンス小さじ1杯を加える。粉砂糖1ポンド(約453g)を少しずつ加えてよく混ぜる。長さ約5cm、直径約2.5cmの卵型をつくって冷やしておく。チョコレート6オンス(約170g)、バター大さじ1杯、水大さじ1杯を湯せんにかけてかき混ぜながら溶かし、先ほど卵型に冷やし固めた”卵”を溶かしたチョコレート液でコーティングし、ワックスペーパーの上におき、冷蔵庫で冷やす。”卵”は18個できる
これはもう『動脈爆弾』とでも呼んだほうがよさそうな代物です。
もうひとつ、健康食品店で買った『ベジタブル・マカロニ』の箱に書かれていたレシピ
■マカロニ・ヘルスサラダ
マカロニを指示通りに茹でて水を切る。細かく刻んだ生野菜(ニンジン、セロリ、ラディッシュ、キャベツ、モヤシなど)4カップを加えて混ぜる。マヨネーズ2カップ、オリーブ油1カップを加える。塩とコショウで味付けをし、よく混ぜて冷やす。レタスの上に乗せ、刻んだアーモンドとパセリをふりかけてテーブルに。
これはサラダというより脂肪料理であり、明らかにからだに悪いものです。
おすすめの油
脂肪全体の摂取量を減らせたら、次はどんな油を選んだら良いのでしょうか?まず、飽和から不飽和までの配列の両端にある脂肪は食べないことです。飽和脂肪の大半は動物性食品からとっているのが普通ですので、一番簡単な方法は菜食、または準菜食に切り替えることです。からだに良くない熱帯の油であるヤシ油やココナッツ油を必要以上に摂りすぎないために、商品のラベルを確かめる必要があります。「水素添加(硬化)」「一部硬化油」などとあるのは、粘稠度を変えるために人工的に飽和化されたもの(トランス脂肪酸)です。白く固まった植物性のショートニングは液体の油を徹底的に化学処理したもので、心臓や血管にもっとも悪い影響を与えます。「一部」であろうと何であろうと、水素添加で硬化した油を使ったクッキー、クラッカー、パン、ケーキなどは食べてはいけません。
(このルールは事実上、市販の焼き菓子類には手を出さない方が良いということを意味しています)。人工的に水素添加した脂肪(トランス脂肪酸)にはもうひとつ、マーガリンがあります。どんなにいい油を使っていても、マーガリンになったときには望ましくない化学組成に変えられています。少量のバターを使う方がましです。
多不飽和油、および多不飽和油を使った製品の摂取も、最小限にとどめる必要があります。わたしはサフラワー油を使いません。サフラワー(紅花)は、天然染料用として栽培してきた植物で、食用として使うようになったのはつい最近のことです。他の植物油と違って、紅花の種子そのものを食べることはしません。インド原産の植物であり、インドの古代医典はサフラワー油を食用として用いることに反対しています。最近では多不飽和脂肪酸に対して単不飽和脂肪酸の割合が多い新種のサフラワーが栽培されています。商品のラベルには『高オレイン酸サフラワー油』と表示されています。オレイン酸はオリーブ油のおもな単不飽和脂肪酸です。オレイン酸をとるなら、味も良く、食用油としての歴史も長いオリーブ油をおすすめします。
多不飽和油は熱を加えると非常に酸化しやすくなり、からだによくないため、もし多不飽和油を使うなら、揚げ物や炒めものには使わず、サラダドレッシングなどの冷たい料理に使用した方が良いです。健康食品店で売られているクッキーやクラッカー、スナックの類でも、ほとんどはサフラワー油をはじめとする多不飽和油で調理してあるため、そういう商品には手を出さずに、安全な材料を使って自分でつくることを覚えた方が良いでしょう。
配列の中央に位置し、かつてはからだに害も益もないと考えられていた単不飽和脂肪が、どうやらもっとも安全な脂肪だといえそうです。適量を摂っているかぎり、心臓血管疾患のリスクをたかめることも、急速に酸化して発ガン成分に変化することもありません。飽和脂肪をやめて多不飽和脂肪に変えると、血中の『善玉コレステロール』と『悪玉コレステロール』が両方とも少なくなります。単不飽和脂肪にすると悪玉だけを低下させるので、からだには良いというわけです。たとえば、オリーブ油には単不飽和脂肪がたくさん含まれています。香りが高い油で、多くの人に好まれています。食用油にオリーブ油を使う文化の人たちは、他に比べて心臓血管疾患になる確率が低いというデータがあります。ラベルを確認し、『エクストラ・バージン(一番搾り)』か『バージン(二番絞り)』と記載されているオリーブ油を購入すると、その鮮やかな色合いと芳醇な香りをお楽しみいただけます。香りの強い油は料理の味つけに使われることが多いので、使いすぎなくて済むという利点もあります。
単不飽和脂肪で香りの少ないものの方が使い勝手が良い場合は、キャノーラ油(菜種油)がおすすめです。キャベツ科の植物の種子からとるキャノーラ油は、もともとインドや中国南部、日本などで使われていたもので、それらの国では菜種油として知られています。その品種が大幅に改良されて、あたらしいキャノーラ油はオリーブ油にもまさるすぐれた脂肪酸配分になっています。『低温圧搾』や『一番搾り』というラベルの貼られたものがおすすめです。安いキャノーラ油は熱処理をしているか、溶剤を使って抽出しているため、脂肪酸の化学構造が変化していてからだに良くありません。
とにかくバランスが大切です。オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸は2:1で摂取することが理想ですが、現代の食事ではそのバランスが大きく崩れ、外食や加工食品 が多い人は30:1になっているともいわれています(s)。オメガ6を摂りすぎており、それが心臓血管疾患の大きな原因になっているのです。
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昔の人はどのぐらいオメガ6を食べていたのか?
Stephan Guyenet博士によると、産業革命以前の人々の典型的なオメガ6とオメガ3の比率は、4:1から1:4の範囲でした。
主に陸上動物を食べていた狩猟採集民のオメガ6とオメガ3の比率は2:1から4:1で、オメガ3を多く含む魚介類を主に食べていたイヌイットの比率は1:4でした。他の民族はおおよそその中間で、人類が進化の過程で食べていた比率は1:1程度でしたが、現在ではその比率は16:1程度であることが人類学的に示唆されています(s1)。
彼らの平均寿命は現代人よりも短いものでしたが、心臓病や糖尿病などの慢性的な生活習慣病ははるかに少なかったと推測する研究者もいます。
産業革命以前の人々は、オメガ6系脂肪酸の摂取量が非常に少なかっただけでなく、運動量も多く、砂糖の摂取量も少なく、現代のようなジャンクフードを食べることもありませんでした。
これらの要因から、オメガ6系脂肪酸の多量摂取が、現代の生活習慣病の発症率の高さの要因の一つと考えられます。
なぜオメガ6系とオメガ3系の脂肪酸に注目するのか?
オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸は人間の体内で生成することができないため、食品から摂る必要があります。食事から摂取せず不足すると欠乏症になり、病気になります。そのため、『必須脂肪酸』と呼ばれています。
これらの脂肪酸は他の多くの脂肪とは異なります。単にエネルギーとして使われたり、貯蔵されたりするだけではなく、生物学的に活性化され、血液凝固や炎症などのプロセスにおいて重要な役割を果たしています。
しかし、オメガ6系とオメガ3系の作用は同じではありません。科学者たちは、オメガ6系は炎症を促進し、オメガ3系は抗炎症作用があると考えています(s2)。
もちろん、炎症は生きていく上で必要不可欠なものです。炎症は、異物や死んでしまった自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持するための反応と考えられており、感染症やケガなどによって細菌やウイルスが体内に侵入しようとした時に、私たちのからだのさまざまな細胞がそれらを排除するために働いた結果なのです。炎症は本来、私たちのからだを守るための生体防御反応ですが、慢性化したり過剰になったりすると、深刻なダメージを受け、病気の原因になることもあります。
実際、慢性的な炎症は、心臓病、メタボリックシンドローム、糖尿病、関節炎、アルツハイマー病、さまざまな種類のガンなど、最も深刻な現代病の主要な原因の一つであり、科学者たちの間では、オメガ6系が多く、オメガ3系が少ない食事は炎症を増加させ、それぞれをバランスよく含む食事は炎症を減少させると考えられています(s3)。
オメガ6系:オメガ3系を1:1~2:1の割合で摂取することが理想ですが(s4,s5)、現代社会では、ほとんどの人がオメガ6系脂肪酸を多く食べています。その割合は、16:1から、加工された食品やファーストフードなどを多く摂取している場合は、30:1になっているともいわれています(s6)。
オメガ3系脂肪酸を多く含む動物性食品の消費量は、これまでで最も少なくなっており、科学者たちは、これらの多価不飽和脂肪酸の摂取量のバランスが崩れていることが、欧米食の最も有害な側面の一つではないかと考えています。
欧米型の食生活を送っている人は、オメガ3系に比べてオメガ6系の摂取量が多すぎるのが一般的です。これは深刻な健康問題であると多くの人が考えています。
では、オメガ6系とオメガ3系とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
オメガ3脂肪酸とは?
オメガ3脂肪酸は、多くの健康効果をもたらす重要な脂肪であり、人間の細胞膜の重要な要素です。
他にも、心臓の健康を改善する、炎症を抑える、動脈内層をなめらかに保ち、動脈内プラークの形成を予防する、HDL(善玉)コレステロール値を上げる、血圧を下げる、メンタルヘルスのサポート、体重とウエストサイズの減少、肝臓の脂肪を減少させる、うつ病、統合失調症、視覚障害、記憶喪失、アルツハイマー病や認知症のリスクを低減する、乳ガン、前立腺ガンなどの特定のガンの予防、糖尿病への有益な効果、乳児の脳の発達をサポート、炎症の抑制など、重要な機能を持っています( s 、s2、s3、s4)。
オメガ6系に比べてオメガ3系脂肪酸の摂取量が少ないと、関節リウマチ、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心不全などの炎症や慢性疾患の原因となる可能性があります(s11,s12)。
オメガ3脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の一種で、私たちのからだに必要不可欠な必須脂肪酸の一つですが、体内で作ることができないため、食事などから摂取する必要があります。
多価不飽和という言葉は、その化学構造を意味しています。「多」は多数を意味し、「不」は二重結合を意味します。つまり、オメガ3脂肪酸は二重結合が多いということになります。オメガ3とは化学構造上の最後の二重結合の位置を意味し、分子鎖の最後尾である「オメガ」から炭素原子3個分(n-3)の位置にあります。
オメガ3脂肪酸は細胞膜の構造を形成するリン脂質の成分として、体内で重要な役割を果たしています。からだにエネルギーを補給し、脂肪酸と類似した化学構造を持つシグナル伝達分子のエイコサノイドの形成にも使われ、循環器系、肺系、免疫系、内分泌系など幅広い機能を持っています。
オメガ3脂肪酸には多くの種類があり、化学的な形状や大きさによって違いがあります。ここでは代表的な3種類をご紹介します。
エイコサペンタエン酸(EPA)20:5n-3
炭素数20の脂肪酸で、主な働きは炎症を抑えるエイコサノイドと呼ばれる化学物質を生成することです。EPAは、うつ病の症状を軽減する効果もあると言われています(s7, s8)。
ドコサヘキサエン酸(DHA)22:6n-3
炭素数22の脂肪酸で、脳の重量の約8%を占め、脳の発達と機能に寄与する(s9)とされています。目の網膜、脳細胞、精子などの重要な構成要素です。
α-リノレン酸(ALA)18:3n-3
この炭素数18の脂肪酸は、EPAとDHAに変換されるが、そのプロセスはあまり効率的ではありません。ALAは心臓、免疫系、神経系に効果があると言われています(s10)。
ALAは主に亜麻仁やチアシードなどのナッツや種子、亜麻仁油、大豆油、菜種油などの植物油に含まれています。EPAとDHAを最も多く含むのは脂身の多い魚で、魚や魚油、オキアミ油、藻類の油などに含まれています。もともとは魚ではなく微細藻類が合成したもので、微細藻類を消費した植物プランクトンを魚が摂取することで魚の組織にオメガ3が蓄積されます。
米国心臓協会(AHA)は、週に2回以上魚を食べることを推奨しており、特にオメガ3系脂肪酸を豊富に含む脂ののった魚を食べることを推奨しています(s13)。そのため、菜食主義者やベジタリアン、あるいは魚が苦手な人にとっては、オメガ3系脂肪酸の必要量を満たすのが難しい場合があります。
3種類のオメガ3脂肪酸のうち、植物性食品に含まれるのはα-リノレン酸(ALA)だけですが、人間の体はALAを活性型のEPAとDHAに変換するのが苦手です。平均して、ALAの1~10%のみがEPAに、0.5~5%がDHAに変換されます(s1、s2、s3、s4)。
したがって、魚油を補給したり、食事からEPAやDHAを摂取したりしない場合は、オメガ3の必要量を満たすために、ALAを多く含む食品をしっかりと食べることが大切です。
また、オメガ3系が少なくオメガ6系が多い食事は、炎症を起こしやすくし、病気のリスクを高める可能性があるので、オメガ6系とオメガ3系の比率にも気をつける必要があります。
オメガ3系の1日の摂取量に関する公式の基準はありませんが、さまざまな団体がガイドラインを提示しています。多くの場合、EPAとDHAは毎日最低250~500mg、α-リノレン酸は男性で1日あたり1,600mg、女性で1,100mgを推奨しています。
厚生労働省が策定した日本人の食事摂取基準(2015年版)では、欠乏症を予防する観点から目安量を設定していますが、α-リノレン酸とEPAやDHAの生体内での機能の判別が難しいことから、オメガ3系脂肪酸とひとまとめにした1日の摂取目安量として、成人男性の場合、2,000~2,400mg、成人女性で1,600~2,000mgの摂取が推奨されています。
オメガ3は病気や体質などによっては抗凝血または過度の出血を引き起こす恐れがあります。何らかの出血をともなう手術の予定がある場合には1~2週間前からオメガ3の摂取を控えることをおすすめします。
また、食品医薬品局(FDA)では、オメガ3の1日あたりの摂取量を3,000mg、欧州食品安全機関(EFSA)では5,000mgを超えなければ安全であると主張していますが、多く飲むことによる利点は示されていません。とはいえ、必須脂肪酸ですので、摂取目安量の中で自分のからだの様子を確認しながら上手に取り入れていただければと思います。
海の幸のオメガ3
以下の食品100gに含まれるオメガ3の含有量を紹介します(s16、s17、s18)。(比較のためナッツ・種子類を一部含む。)
食品名 |
ALA(単位:mg) |
DHA(単位:mg) |
EPA(単位:mg) |
銀鮭(養殖・生) |
75 |
1,200 |
740 |
銀鮭(養殖・焼き) |
94 |
1,500 |
930 |
アトランティックサーモン(養殖・生) |
140 |
1,400 |
850 |
アトランティックサーモン(養殖・焼き) |
170 |
1,700 |
1,000 |
うるめいわし丸干し |
28 |
620 |
340 |
まいわし(焼き) |
59 |
980 |
790 |
まさば(水煮) |
120 |
1,400 |
930 |
まさば(焼き) |
130 |
1,500 |
900 |
ノルウェーサバ(焼き) |
350 |
2,700 |
1,700 |
サバ水煮缶 |
150 |
1,300 |
930 |
まあじ(生) |
16 |
480 |
260 |
あじの開き |
47 |
1,300 |
560 |
かつお(春獲り・生) |
2 |
88 |
24 |
かつお(秋獲り・生) |
41 |
970 |
400 |
さんま(皮なし・刺し身) |
410 |
2,800 |
1,500 |
さんま(皮つき・焼き) |
130 |
1,200 |
560 |
さんま開き干し |
170 |
1,500 |
900 |
牡蠣(養殖・生) |
9 |
71 |
120 |
牡蠣燻製油漬缶 |
240 |
190 |
540 |
スズキ(生) |
25 |
400 |
300 |
ブリ(生) |
97 |
1,700 |
940 |
ブリ(焼き) |
110 |
1,900 |
1,000 |
ホッケ(開き・焼き) |
88 |
860 |
1,100 |
インドマグロ(脂身・生) |
190 |
2,700 |
1,300 |
インドマグロ(赤身・生) |
– |
7 |
2 |
本マグロ(脂身・生) |
210 |
3,200 |
1,400 |
本マグロ(赤身・生) |
3 |
120 |
27 |
キハダ水煮缶 |
2 |
120 |
20 |
ビンナガ水煮缶 |
12 |
440 |
110 |
キハダ油漬缶 |
1,300 |
65 |
14 |
ビンナガ油漬缶 |
79 |
370 |
77 |
あんこう(肝・生) |
260 |
3,600 |
2,300 |
亜麻仁(煎り) |
24,000 |
0 |
0 |
エゴマ(乾) |
24,000 |
0 |
0 |
クルミ(煎り) |
9,000 |
– |
– |
※DHAとEPAは化学的な構造も良く似ているため、一部同じ効果があります。
消費者庁の食品の機能性モデル事業では、DHAとEPAの両者で心血管疾患リスク低減や血中中性脂肪低減あるいは関節リウマチ症状緩和に十分な根拠があるとされています。
しかしながら、DHAは脳や網膜などの組織を構成する成分でもあることから、脳や神経組織の発育や機能維持の効果が期待されています。
一方、EPAは体の中でプロスタグランジンという物質に変化し、これが血液を固まらせにくく、血液をさらさらにすることから、抗血栓作用の効果が期待されています。
※オメガ3の摂取量を増やすには、週に1~2回、魚介類を食べるのが効果的です。特にサーモンのような脂肪分の多い魚は、オメガ3の摂取に適しています。マグロ類、サメ類、深海魚類(概ね震度200m以上の海に生息するキンメダイ、ムツ、ウスメバル、ユメカサゴ、メヌケなど)、鯨類など生態系の上位のものはメチル水銀濃度が高いため、週2日以内(合計200g以下、妊婦や幼児などは100g以下)にすることをおすすめします。サンマ、イワシ、サバなどはメチル水銀濃度が低いため、特に控える必要はないとされています。
※ナッツや種子類、精製された植物油や植物油で調理された食品には、オメガ6系脂肪が多く含まれています。
α-リノレン酸(ALA)を多く含む食品
以下では、ALAを多く含む7つの植物性食品を紹介します。ベジタリアンにっては、ナッツや種子はオメガ3のベストな供給源であり、魚油を補給したり、食事からEPAやDHAを摂取したりしない場合は、オメガ3の必要量を満たすために、ALAを多く含む食品をしっかりと食べることが大切ですが、ナッツや種子類にはALAともに大量のオメガ6系脂肪酸が含まれているため、食べすぎには注意が必要です。
① チアシード
チアシードは健康に良いことで知られており、食物繊維とタンパク質を豊富に含んでいます。また、植物性のオメガ3脂肪酸(ALA)も豊富に含まれています。
オメガ3脂肪酸、食物繊維、タンパク質のおかげで、チアシードを健康的な食生活の一部として摂取すると、慢性疾患のリスクを低減できるという研究結果が出ています。ある研究では、チアシード、ノパル、大豆タンパク質、オート麦を摂取すると、血中トリグリセリド、耐糖能異常、炎症マーカーが減少することがわかりました(s)。
2007年に行われた動物実験でも、チアシードを食べると血中トリグリセリドが減少し、善玉のHDLコレステロールとオメガ3が増加することが分かりました(s)。
チアシードを28g(大さじ2杯)食べるだけで、オメガ3脂肪酸の1日の推奨摂取量を超える、4,915mgもの量を摂取することができます(s)。
チアシードは、栄養価の高いチアプリンを作ったり、サラダやヨーグルト、スムージーの上に振りかけると美味しく摂取することができます。
また、挽いたチアシード大さじ1杯(7g)を大さじ3杯の水と混ぜると、卵1個の代わりになります。
②芽キャベツ(ブリュッセルスプラウト)
芽キャベツはキャベツの若芽ではなく、キャベツの仲間を品種改良したものです。茎が長く、その茎にびっしりと生える直径2~4cmの脇芽が芽キャベツです。100gあたりのビタミンC含有量を比較すると、キャベツが41mgなのに対し、芽キャベツには約4倍の160mgも含まれています。芽キャベツは、ビタミンK、ビタミンU(キャベジン)、ビタミンC、食物繊維を豊富に含むだけでなく、オメガ3脂肪酸の優れた供給源でもあります。
芽キャベツのようなアブラナ科の野菜には栄養素やオメガ3脂肪酸が豊富に含まれているため、多くの健康効果があると言われています。
実際、ある研究では、アブラナ科の野菜の摂取量が増えると、心臓病のリスクが16%低下することがわかっています(11)。
生の芽キャベツ1/2カップ(44g)には、約44mgのALAが含まれています(12)。
一方、加熱した芽キャベツにはその3倍のALAが含まれており、半カップ(78g)あたり135mgのオメガ3脂肪酸が含まれています(13)。これは1日の推奨摂取量の12%に相当します。
ローストしても、蒸しても、湯通ししても、炒めても、芽キャベツはどんな食事にも合うヘルシーでおいしい食材です。
③藻類油
藻類から抽出したオイルである藻油は、EPAとDHAの両方を摂取できる数少ないヴィーガン食品のひとつです(14)。
一部の研究では、EPAとDHAの含有量が魚介類に匹敵するという結果も出ています。
ある研究では、藻類油のカプセルと鮭を調理したものを比較したところ、どちらも忍容性が高く、吸収率も同等であることがわかりました(15)。
研究結果は限られていますが、動物実験では、藻類油からのDHAが特に健康に有益であることが示されています。実際、最近の動物実験では、DHAを含む藻類油をマウスに補給すると、記憶力が向上することがわかりました(16)。しかし、その健康効果の程度を明らかにするには、さらなる研究が必要です。
藻類油は、DHAとEPAを合わせて400~500mg摂取できるソフトジェルタイプのサプリメントが一般的です。
④ヘンプシード
タンパク質、マグネシウム、鉄、亜鉛に加えて、麻の実は約30%の油で構成されており、オメガ3をたっぷり含んでいます(18、19)。
動物実験では、麻の実に含まれるオメガ3が心臓の健康に役立つことがわかっています。
血栓の形成を防いだり、心臓発作後の心臓の回復を助けたりする可能性があるといわれています(20、21)。
28gの麻の実には、約6,000mgのALAが含まれています(22)。これは1日の推奨摂取量の375~545%に相当します。
ヨーグルトの上に麻の実をふりかけたり、スムージーに混ぜたりすると、歯ごたえがプラスされ、おやつのオメガ3含有量もアップします。
また、自家製の麻の実グラノーラバーは、麻の実と亜麻仁などのヘルシーな食材を組み合わせて、さらにオメガ3を摂取できる簡単な方法の一つです。
麻の実を圧搾して作るヘンプシードオイルには1日の摂取目安量10gあたりALAが1,500mgも含まれており、オメガ3脂肪酸を集中的に摂取することができます。
⑤クルミ
クルミは、重量の約65%が脂肪で構成されており(23)、健康的な脂肪とALAがたっぷり含まれています。
いくつかの動物実験では、クルミに含まれるオメガ3が脳の健康に役立つことがわかっています。
2011年に行われた動物実験では、クルミを食べることで学習能力や記憶力が向上することがわかりました(24)。
また、別の動物実験では、アルツハイマー病のマウスの記憶力、学習能力、運動能力、不安感がクルミによって大きく改善されたことが報告されています(25)。
クルミの1日あたりの推奨摂取量は7粒(28g)、おおよそ一掴み分で2,542mgのALAを摂取することができます(26)。
自家製のグラノーラやシリアルにクルミを加えたり、ヨーグルトの上に振りかけたり、一握りのクルミをつまむだけで、ALAの摂取量を増やすことができます。
⑥亜麻仁(あまに)
亜麻仁は、食物繊維、タンパク質、マグネシウム、マンガンを豊富に含んだ栄養の宝庫であり、ALAも豊富に含んでいます。
いくつかの研究では、オメガ3脂肪酸を含む亜麻仁が心臓の健康に良いことが実証されています。亜麻仁と亜麻仁油の両方が、複数の研究でコレステロールを低下させることが示されています(27、28、29)。
また、別の研究では、亜麻仁は特に高血圧の人の血圧を大幅に下げる効果があるとされています(30)。
亜麻仁は小さじ1(4.6g)で、1,100mgのALAを摂取することができます(26)。
亜麻仁は食生活に取り入れやすく、ヴィーガン向けのお菓子作りにも欠かせない食材です。
大さじ1杯(7g)の亜麻仁ミールを大さじ2.5杯の水と一緒に泡立てれば、焼き菓子の卵1個分の代用として便利に使えます。
まろやかで少しナッツのような風味の亜麻仁は、シリアルやオートミール、スープやサラダに加えるのにも最適です。
⑦シソの実油
シソの実から作られるこのオイルは、韓国料理の調味料や食用油としてよく使われています。
万能で風味豊かな食材であることに加えて、オメガ3脂肪酸の良質な供給源でもあります。
20人の高齢者を対象としたある研究では、大豆油をシソの実油に置き換えたところ、血中のALA濃度が2倍になったことがわかりました。また、長期的には、EPAとDHAの血中濃度の上昇にもつながりました(32)。
シソ油にはALAが非常に豊富に含まれており、この種子油の58%を占めると推定されています(33)。大さじ1杯(14g)には、約9,000mgのALAオメガ3脂肪酸が含まれています。
シソの実油の健康効果を最大限に引き出すためには、調理油としてではなく、風味付けやドレッシングとして使用することをおすすめします。多価不飽和脂肪を多く含む油は熱で酸化し、病気の原因となる有害なフリーラジカル(細胞のゾンビのようなもの)を形成するためです(34)。
また、カプセル状のシソの実油は、手軽にALAの摂取量を増やすことができます。
肉のオメガ3
動物性食品は、本来オメガ3脂肪酸であるEPAとDHAを最も多く含む食品です。しかし、今日の食肉動物は通常、大豆やトウモロコシを含む穀物を主原料とした飼料を与えられており、これはとても不自然なことです。
そのために食肉中のオメガ3系脂肪酸の含有量が減り、肉に含まれる多価不飽和脂肪酸のほとんどがオメガ6系脂肪酸になってしまっています。( s 、s2、s3)。
2021年2月19日に科学雑誌「Future Foods」に掲載されたばかりの研究論文によると、ニューカッスル大学で行われた研究を受けて、認証された牧草飼育牛肉が「長鎖オメガ3脂肪酸の供給源」として法的に認められる可能性が示唆されています。
主任研究員のジリアン・バトラーは、「有機栽培の牛肉と慣行栽培の牛肉の違いはこれまでにも研究されてきましたが、生涯を通じて100%牧草飼料を与えられた牛が特に有益であるという記録は今回が初めてです」と述べています。
「私たちは、パスチャー・フォー・ライフ・ビーフには40mg/100g以上の長鎖オメガ3が含まれていることを発見しました。これは、認証を受けた農家が牛肉を販売する際に、欧州食品規格の “オメガ3脂肪酸の供給源 “として認定されていることを意味しています」。
2019年5月から6月にかけて、2つのスーパーで非有機および有機のサーロインステーキを購入。これらを、100%放牧で飼育されていることを意味する「Pasture for Life」の認証を受けた2つの農場の牛のステーキと比較しました。また、保全放牧とも呼ばれる植生管理を主な目的として飼われている動物のステーキ(いずれも100%放牧)も対象とし、それぞれのステーキの脂肪組成について検討しました。
“良い “とされる長鎖オメガ3脂肪酸と “良くない “とされるオメガ6脂肪酸の肉中濃度が、牛の飼料によって明らかに異なるという結果が出ました(図1)。
穀物や穀物の副産物を与えると、肉に含まれるオメガ3系脂肪酸が少なくなり、好ましくないオメガ6系脂肪酸が多くなることが確認されました。また、オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸の比率も、100%放牧牛の牛肉が2:1と健康的であるのに対し、穀物飼料を与えた牛肉は7:1と非常に劣っています。
図1:4つの生産システムのサーロインステーキにおける筋肉組織中の脂肪酸の平均濃度
LA = リノール酸(オメガ6系またはn-6系脂肪酸
ALA=α-リノレン酸(オメガ3系、n-3系脂肪酸
この研究は、動物が何を食べているかが、消費者が口にする肉の品質に直接影響することを明確に示しています」と語るのは、「Pasture for Life」の食肉・乳製品認証基準を運営するPasture-Fed Livestock Associationのジミー・ウッドロウ。
「私たちがもっと食べるべき脂肪酸は、多様な牧草や飼料だけを食べて育った動物の肉に、はるかに高い濃度で含まれています。
「農家の方々が行っていることを科学的に裏付ける証拠が増えてきており、彼らの肉が人々が食べられる最高の栄養品質であることを示しているのです」。
そのため、肉を選ぶ際には牧草飼育の肉が最適であることは間違いありません。もしも従来の飼育方法で育てられた肉を選ぶ場合には、なるべく不自然な加工をされていないものの方が安全です。
鶏肉や豚肉などの従来の飼育方法の肉でも、オメガ6が多く含まれている場合があります。オメガ6系の摂取量をできるだけ減らしたい場合は、それらの動物の赤身の部分の肉を選ぶとよいでしょう。
また、卵を選ぶ際には、穀物飼料で育てられた鶏の卵に比べて、オメガ3が多く含まれている放牧卵やオメガ3強化卵を買うのもよいでしょう。
私たちは海に囲まれた島国であり、身近で手に入る新鮮な魚から十分なオメガ3脂肪酸を摂取することができますが、従来型の肉類をよく食べ、魚介類をあまり食べない、または魚の重金属が心配だという方は、魚油のサプリメントを検討してみてください。探せば魚介に含まれる水銀などの重金属や汚染物質が排除されていて安心できる高品質なものがあります。タラの肝油は、ビタミンDとAが含まれていておすすめですが、くれぐれも摂りすぎにはご注意ください。
オメガ6系脂肪酸とは?
オメガ6系脂肪酸は、加工種子油や植物油、加工食品やファーストフードに大量に含まれています。
水色のバーがオメガ6系の割合を表しています。ひまわり油やコーン油、大豆油、綿実油に多く含まれており、バター、ココナッツ油、ラード、パーム油、オリーブオイルには少ないことが分かります。
これらの油を加工する技術は約100年前までは存在しなかったため、人々は大量のオメガ6に遺伝子的に適応する時間がありませんでした。
下のグラフは、アメリカでの大豆油の消費量が、ゼロから1人当たり年間24ポンド(11キロ)にまで激増したことを示しています。これは1999年の総カロリーのなんと7%に相当します( 4 )。
大豆油は本当に安価で、あらゆる加工食品に含まれているため、現在アメリカではオメガ6脂肪酸の最大の供給源となっています。
下のグラフでは、体脂肪の貯蔵庫に含まれるオメガ6脂肪酸の量が、過去50年間だけで200%以上(3倍)も増加していることがわかります。
このように、現代人が食べている脂肪は、体脂肪の蓄積と細胞膜の健康の両面で、実際に体に変化をもたらしているのです。
多くの研究データからオメガ6脂肪酸の摂取量と心血管系の死亡率の相関関係が取り沙汰されており、循環器疾患、2型糖尿病、肥満、メタボリック・シンドローム、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、黄斑変性症、関節リウマチ、喘息、ガン、精神疾患、自己免疫疾患などさまざまな現代病も増加していますが、オメガ6脂肪酸との関連性についてはさらなる研究が必要とされています。解明されるまでは脂質のバランスを取りながら、肉類、バター、チーズ、ペストリーなどを、無理のない範囲で植物油、ナッツ類、種子類などに置き換える工夫をすることをおすすめします。
厚生労働省が策定した日本人の食事摂取基準(2015年版)では、脂質の食事摂取量を総摂取カロリーの20~30%、そのうちの飽和脂肪酸を7%以下とする基準を設けています。オメガ6系脂肪酸の1日の摂取目安量として、成人男性の場合、8.0~11.0グラム、成人女性で7.0~8.0グラムの摂取が推奨されています。
オメガ6を多く含む食品
今日では、オメガ6の不足を心配する必要はほとんどありませんが、参考までに以下の食品100gに含まれるオメガ6の量を示します。
大豆油:50グラム
コーン油: 49グラム
マヨネーズ 39グラム
くるみ:37グラム
ヒマワリの種 34グラム
アーモンド 12グラム
カシューナッツ:8グラム
オメガ9の脂肪を多く含む食品
オメガ9脂肪は以下のものによく含まれます。
植物油および種子油
ナッツ
種子
※オメガ9は体内で私たちの体内で合成できるため、必須脂肪酸ではありませんが、オメガ6を多く含むものに多く含まれているため、参考までに以下の食品100gに含まれるオメガ9の量を示します。
オリーブオイル:83グラム
カシューナッツオイル:73グラム
アーモンドオイル:70グラム
アボカドオイル:60グラム
ピーナッツオイル:47グラム
アーモンド 30グラム
カシューナッツ:24グラム
くるみ:9グラム
必須脂肪酸のまとめ
・オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸は、二重結合が多いことから多価不飽和脂肪酸と呼ばれており、私たちが生きていく上で必要不可欠な栄養素(必須脂肪酸)ですが、体内で生成する酵素を持たないため、食事から摂取する必要があります。
・オメガ3脂肪酸の主なものは、EPA、DHA、ALAの3種類で、EPAとDHAは脂身の多い魚に、ALAとオメガ6系、(オメガ9系:必須脂肪酸ではない)は植物油、ナッツ類、種子類に多く含まれています。
・オメガ6とオメガ3の理想的なバランスは2:1ですが、現代のファーストフードや加工食品を多く摂っている人でひどい場合は30:1と大きくバランスが崩れている。
・オメガ6を摂りすぎたからといってバランスを取るためにオメガ3を大量に摂ってはいけません。それでは脂肪の総摂取量が増えてしまうため元も子もありません。とはいえ、神経質になりすぎてストレスを溜め込むのはさらに良くありません。1食ぐらいでどうこうなるものではないので、楽しむ時には思いっきり楽しんで好きなものを食べ、翌日以降で調整しましょう。
・食品業界も医学界と同様、数兆~数千兆円規模の市場なので、利権がらみでハッキリしたデータはなかなか出揃いませんが、心疾患だけでなく循環器疾患、2型糖尿病、肥満、メタボリック・シンドローム、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、黄斑変性症、関節リウマチ、喘息、ガン、精神疾患、自己免疫疾患などさまざまな現代病と脂質のバランスや摂取量の関連性は明らかです。これらのことを念頭において摂取する脂肪を選んでいきましょう。
・オメガ6系脂肪酸の摂取量を減らすために最も重要なことは、加工された植物油と、それを含む加工食品を食生活から排除することです。
・オメガ6系の多い植物油(およびそれを含む加工食品)を避け、少なくとも週に1~2回は、海の幸をはじめとするオメガ3系の豊富な動物をたくさん食べましょう。
また、必要に応じて、フィッシュオイルなどのオメガ3系サプリメントを補給しましょう。
では、最後に油の注意点と種類をまとめておきます。
油の注意点、種類のまとめ
・油は少量ずつ購入する。
・蓋をあけたら冷蔵庫にしまっておく。
・高温で熱した油(揚げ物など)を2回以上使わない。
・煙が出るまで熱してはいけない。油から出る煙には強い発がん性があり危険。
・油を使う時、油を使った商品を食べる時には臭いを嗅ぎ、異臭がした場合は廃棄する。
⇒ファーストフード店などではコストの都合により油を替える回数が極端に少ないため、酸化成分が危険な状態に達している可能性が高い。揚げ物油の色が黒色く近いものは「発がん物質のスープ」と呼んだほうが良いものが多い。
つぎは油の種類についてておさらいします。
- サフラワー油(紅花油)・・・紅花は古くから染料として使われており、いまだに種子は食用ではない。不飽和が強すぎるため、使わない方が良い。
- ひまわり油、コーン油・・・不飽和が非常に強いため、適量を加熱せずに使う。
- 胡麻油・・・香りが非常に強く、アジア料理に使われることが多い。スープや炒めものの仕上げに少量を使う。ドレッシングやマリネにもおすすめ。
- ナッツ油(ヘーゼルナッツ、クルミ)・・・香りが良いが高価。単不飽和油なので、サラダ、マリネ、冷菜などに生のまま少量を使用する。
- 大豆油・・・安価。組成はコーン油と同じでほとんどが多不飽和油。加熱せずに適量を使う。
- 綿実油・・・飽和脂肪としても単不飽和脂肪としても中途半端だし、綿は食品には適さない。他の油よりも農薬の残留が多い場合も多いため使用しない。
- ピーナッツ油・・・単不飽和から多不飽和までの配分比率はすぐれているが、オリーブ油やキャノーラ油よりは飽和脂肪が多い。主体となる脂肪酸(アラキドン酸)が痛みや炎症を仲介するホルモンの産生を高める恐れがあるため、炎症状態(関節炎、月経前症候群、自己免疫疾患など)にある人は避けること。それ以外の人は適量なら差し支えない。
- アボカド油・・・大部分が不飽和だが、香りがなく高価。バターやマーガリンの代わりに多少味つけしたアボカドを裏ごししたものをつけるのもおすすめ。
- オリーブ油・・・油の中ではいちばん単不飽和性が強い。一番搾りか二番絞りなら加熱してもいいし、冷菜にもおすすめ。
- キャノーラ油(菜種油)・・・おおむね単不飽和。一番飽和性が少ない(オリーブ油の半分以下)。万能で香りはない。
- ヤシ油、ココナッツ油・・・飽和脂肪が強すぎるが、スキンケア、ヘアケア、減量、イースト菌感染症の治療、消化の改善、および多くの感染症や病気に対する免疫力の向上に役立つというデータもあるため、低温で丁寧に圧搾された製品を厳選して適量を摂取する。おすすめのココナッツ油はこちら
- ココアバター・・・チョコレート含まれる脂肪。外見は飽和脂肪(室温で固まる)だが、他の飽和脂肪にくらべて心臓血管疾患になるリスクは少ない(体内で飽和脂肪の一部が単不飽和脂肪に変わるらしい)。食べるのは適量にしたいが、皮膚の荒れた部分や乾燥した部分などのスキンケアにたっぷり塗ると効果がある。
- 植物性ショートニング(クリスコ)、マーガリン・・・飽和脂肪と不飽和脂肪の混合物だが、化学処理の産物であるため絶対に使用しない。
ある医学生が固形の植物性ショートニングについて博士に質問しました。
「なぜショートニングというんだろう。何をショートン(縮める)するのですか?」
博士が答える前に、別の学生が答えました。
「きみの寿命さ。」 - チキン(鶏)、ラード(豚)、ビーフ(牛)の脂肪・・・飽和が強すぎるため、できるだけ少量にするかできれば摂取しない。植物性脂肪と違ってコレステロールが含まれている。
- 乳脂肪・・・動物性脂肪の中でもっとも飽和性が強く、コレステロールも多い(牛脂肪の2倍以上)。バター、クリーム、アイスクリーム、全乳製品はできるだけ量を少なくすること。包装のラベルを読み、脂肪のパーセンテージを確かめること。
脂肪についてかなり長々と書いてきましたが、健康と病気を左右する脂肪の役割について知ることはとても重要なことです。まだまだ多くの人が知らないことや誤って伝えられている情報が多すぎるのです。
脂肪も私たちにとっては必要な栄養素の一つであり、賢く選んで摂取することで、食事のコクや美味しさ、満足感が増して、私たちに食事の愉しみと幸せを与えてくれる大切なものなのです。
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