抗菌力と勇気の象徴
中世のヨーロッパでペストなどの疫病が流行した時、人々はタイムの枝を焚いて空気を浄化し、感染をまぬがれたといわれています。
悪魔の仕業と考えられた病気に立ち向かうことからタイムは勇気の象徴とされ、「タイムの香りのする人」と言われるのは男性にとって最大の褒め言葉とされていました。
現在では、病院で消毒に使われるフェノールの20倍ほどの並外れた抗菌力を発揮し、病原菌の感染を阻止することが知られています。鎮痙作用や、鎮咳・去痰作用もあり、呼吸器系疾患に使われます。
学名 | Thyme vulgaris |
植物分類 | シソ科 |
和名 | タチジャコウソウ |
原産地 | 地中海地域 |
使用部位/抽出法 | 葉・茎・花/水蒸気蒸留法 |
主成分(CT thymol) | チモール 37−55% パラシメン 14−28% γ-テルピネン 4−11% リナロール 3−6.5% カルバクロール 0.5−5.5% ミルセン 1−2.8% ORAC:15,960μTE/100g |
精油の香りのタイプ/ノート | ハーブ系/トップ |
香りの効能 | タイムは病後の疲労の回復に有効である。 |
効用 | 抗菌、抗感染、抗寄生虫、抗リウマチ、鎮痙、駆風、瘢痕形成、消化促進、穏やかな利尿、去痰、血圧上昇、神経強壮、性的強壮、健胃、発汗 |
適応症 | ぜんそく、気管支炎、大腸炎、膀胱炎、皮膚炎、炭疽菌症、疲労(一般)胸膜炎、乾せん、座骨神経痛、結核、膣カンジダ |
その他の使用例 | このオイルは、神経と胃の一般強壮剤である。バクテリア感染、呼吸器感染、血液循環、うつ病、消化、頭痛、不眠症、リウマチ、尿路感染、脊柱周辺のウイルス治療(レインドロップテクニック)に役立つ。 |
使用法 | エッセンシャルオイル1にV-6ベジタブルオイル4の割合で希釈する①1−2滴局部に塗布する。②チャクラ及び、又はヴァイタフレックス反射点にオイルを塗布する。③噴霧する。④サプリメントとして摂取する。 |
禁忌、注意事項 | ・フェノールタイプ(CTチモール、CTカルバクロール)の皮膚感作。 ・ディフューザーやボトルから直接吸入、または原液を塗布すると、鼻粘膜や皮膚を刺激する可能性がある。 ・妊娠中や治療中は医師に相談してください。 |
コンパニオンオイル | ベルガモット、シトラスオイル、シダーウッド、ジュニパー、ティーツリー、オレンジ、ローズマリーCTシネオール |
*ケモタイプ:日照、標高、季節変動などの生育環境によって、同じ植物でありながら含まれる精油成分の構成比率に著しく違いが生じるもの。
CTゲラニオール:子宮強壮、鎮痙、鎮静作用(マイルドなアルコール成分を多く含み、皮膚に穏やかでスキンケアにも有用)
CTチモール:引赤、抗寄生虫、殺菌、殺真菌作用(フェノール類のチモールを焼く50%含み、感染症に最も効果的。皮膚刺激作用が強い)
CTツヤノール:強肝、肝細胞再生、循環促進作用(肝臓を酷使している人/不調がある人に効果的)
CTパラシメン:抗炎症、抗感染、抗リウマチ、鎮痛作用(関節痛、腱鞘炎、リウマチなどの痛みのために使用すると良い、皮膚刺激に注意)
CTリナロール:鎮咳、鎮静、抗不安作用(リナロール約80%、刺激が少ないので皮膚の弱い方や子どもにも安全に使用できる)
性質 | 熱・燥 |
五行 | 水と金 |
元素 | 火(熱3〜1度、乾3〜1度)ケモタイプ*による |
支配星/星座 | 火星/牡羊座 |
歴史 | タイムを初めて用いたのは今から3500年ほど前の古代シュメール人とされ、薫香に用いた説が有力です。古代エジプト人はタイムをthamと呼び、ミイラの防腐剤として使い、古代ギリシア人は調理用ハーブとして用いました。古代ギリシアでは空気の浄化や疫病の蔓延の予防にもタイムを役立てました。 独特の芳香が大切にされ、「燻す」というギリシア語thymonと命名されたタイムですが、勇壮果敢にするとも考えられたため、ギリシア語で「勇気」を表すthumonとも結びつきます。ローマ帝国の兵士らは戦の前にタイムを入れて入浴して戦意を高めました。中世の十字軍の騎士たちはタイムの小枝を織り込んだスカーフをつけて遠征に出発しました。 タイムは最も熱性が強く、活性力に優れた精油の一つです。ハーバリストのジョン・ジェラルドはタイムを「熱性と完成は第3度(最も強い)」と分類しました。(1597年) |
身体への作用 | タイムは身体の陽気を増す強い強壮作用をもち、肺・心・腎の機能と神経系を支えます。抗菌作用にも優れ、タイム油は感染症に幅広い用途があります。 呼吸器系の強壮や殺菌、去痰作用をもつコモン・タイム油は寒証で、肺の機能低下とうっ滞症状や感染症、慢性疲労や浅い呼吸、カタル性の咳に良く、特に多量の透明あるいは白い痰を排出する気管支炎、さらに寒気や節々の痛みを伴う風邪やインフルエンザの症状緩和に役立つでしょう。 タイム油もローズマリー油のように心陽*を補い、心臓の拍動を強めて血行を促します。毛細血管の強壮をはかるため、貧血や脱毛症、こわばりやしめつけのある痙攣、局所性の痛みを伴うリウマチや関節痛にも適します。 タイム油には消化促進と駆風作用もあり、食欲を助け、膨満感や鼓腸を解消します。また、抗菌と抗真菌作用にも優れ、腸内異常発酵や胃腸炎、カンジダ症や膀胱炎などの泌尿器・生殖器系の感染症にも役立ちます。 |
心への作用 | 身体の躍動的な陽気を著しく強めるタイム油は、心理や感情面などの精神の働きも強めて高揚させ、神経系を強壮するため、神経衰弱や慢性的な不安に適します。 タイム油は、まず肺を強壮して失望感を一掃させ、次に腎を活性化させて精力を増すという二重構造で作用していることが分かります。 18世紀にはフランスのbaume tranquillという神経症の処方薬にも含まれていました。タイム油は「胸部を開き」、肺の「魄」の回復を助けるため、引っ込み思案、悲観主義、自己懐疑的な気持ちが特徴の落ち込みに役立つため、はるか昔から憂うつの特効薬として伝統的に処方されていました。 |
雷と嵐の神 トール
トールはゲルマン民族の寛容な神であり、心優しき巨人です。しかし、ひとたび憤ると雷のごとく激怒します。トールは豊穣と戦の神。彼が手にした魔法の鎚はタイム油が授ける「潔さ」と「勇気」の象徴です。
タイムには多くの種類がありますが、ハーブとしてよく用いられるのはコモンタイムです。これで入れたティーは殺菌力にすぐれ、風邪やインフルエンザ、胃腸炎などの感染症に効果を発揮します。また、気管支を拡張して浄化し、痰を取り除くことから、気管支炎やぜんそくの症状を緩和します。
消化促進作用もあるため、食べすぎたときに飲むのも良いでしょう。
ティーに使う部分 | 葉 |
主要成分 | 精油、フラボノイド、タンニン、苦味質、サポニン |
作用 | 殺菌、利尿、弛緩、去痰、消化促進、強壮、収れん、鎮痙、抗菌 |
香りと味 | ほろ苦く、キリッとしたすがすがしい味と香り |
飲み方 | シングルまたはブレンドで、通常の飲み方を。フレッシュも可。 |
注意点 | 妊娠中や授乳中、高血圧の人は長期に渡る常用、大量の使用を避ける。 |
利用法 | ティーを使ってうがいをする(のどの痛みやせきなどに)。ティーを使ってフットバスをする(水虫などに)。バスタブに入れて入浴する(筋肉痛に)。料理に使う。ポプリを作って使う(消臭に)。 |
すっとした香りが特徴的なハーブで、殺菌力に優れ、かぜや食あたりの予防に効果的です。また、気管を拡張して咳や痰、喘息を鎮めたり、消化を促進して胃のむかつきやもたれを解消します。
体質 | 気滞・瘀血 |
五性/五味 | 平/辛・苦 |
帰経 | 肺、大腸 |
主な作用 | 風邪予防、咳、喘息、消化不良 |
注意点 | 熱がこもりやすい人は取り過ぎに注意する。 |
【旬】4〜6月 【選び方】香りが強いもの 【主な栄養素】カルバクロール、サポニン、タンニン、チモール、フラボノイド、リナロール |
強力な殺菌、防腐作用を利用して、保存食に用いたり、香りをいかして肉や魚料理に使ったりします。スープなどの煮込み料理やドレッシング作りに使われる、ミックススパイス「ブーケガルニ」の定番の材料でもあります「ブーケガルニ」は、複数のお好きなハーブ3種類を花束のように糸で結んで作ります。
生の葉は、茎からしごきとってみじん切りにして、バターやクリームチーズ、パンなどに練り込むと風味が良くなります。タイムは香りが長持ちするので、料理の最初から煮込むことができます。
ブーケガルニにおすすめのハーブ
■ローリエ
ブーケガルニの多くにはローリエが選ばれています。その理由の一つに、長く置くほど味が出るハーブだからというものがあります。
長時間煮込む料理に最適なので、スープやソースなどに使用すると良いでしょう。
風味が豊かになるので、複雑な味を出したい時にもおすすめです。また、ローリエの効能としては、胃腸の不調に効果があります。
昔から生薬として使用されていたので、胃腸が弱っている時などに積極的に使用してみましょう。
■タイム
肉料理によく使用されるのがタイムです。タイムに含まれる「チモール」という成分に強い殺菌力があり、昔はミイラの保存剤や防腐剤として使用されていたそうです。
また、冷蔵の技術がなかった時には、料理にタイムを加えて保存効果を高めていました。
日本でも最近は浸透してきて、日本原産のものも出回るようになっています。
タイムの香りは高貴な香りとも言われ、ブーケガルニに使用すると良い香り付けにもなりますし、保存性を高めることも期待できます。
また、タイムにも種類が多く、シルバータイム、レモンタイムなどお好みのものを探す楽しみもあります。
■パセリ
料理の付け合わせでよく目にするパセリですが、味は苦みが強いものなので、食べる機会は少ないかもしれません。
しかし、実は栄養効果がとても高いハーブです。古代エジプトの時代から、万能食材として親しまれてきました。
栄養素としては「ビタミンC」や「ベータカロテン」が含まれているので、女性に嬉しい美肌効果も期待できます。
また鉄分やカルシウムも豊富ですので、貧血気味の方にも効果的です。そして香りもよく出て、どのような料理に使用しても馴染みます。
ブーケガルニで香り付けのために使用する場合は、生のフレッシュパセリを使用することをおすすめします。
■セロリ
茎の部分でも葉の部分でも使用できますので、料理で余ったセロリは取っておくと良いでしょう。
葉に含まれる香り成分の「ピラジン」には、リラックス効果も期待できますので、香りを嗅ぐと落ち着くこともできます。
■バジル
バジルは香り付けに始まり、臭み消しもでき、ソースなどとして美味しく食べることもできます。
できた料理に振りかけるだけでも、味にアクセントを加え深みのある料理へと変身させてくれる万能ハーブです。
相性の悪い料理もとりわけないので、イタリアンやエスニック料理、またデザートなど、様々な料理に使用できます。
食欲増進の効果が期待できますので、夏バテの時や胃腸が弱っている時の料理に使用してみると良いでしょう。
ドライハーブとして、家に常備してある家庭も多いと思いますので、サシェにして使用するのがおすすめです。
■セージ
セージは臭み消しにとても向いているハーブで、肉料理に多く使用されます。特に、ニオイが強く出やすいラム肉や、内蔵系の食材に効果を発揮してくれます。
また、脂を抑えてくれる働きもあるので、脂身が多い食材を使用する時にも入れると良いでしょう。
その爽やかな香りはとても強いので、少量でもしっかりと香り付けの役割を果たしてくれます。
また、長時間入れておくと香りが付き過ぎる場合もありますので、注意しましょう。
分類 | 常緑小低木 |
草丈 | 20〜40cm |
性質 | 耐寒性、好日性 |
栽培のポイント | 垂直にのびる立ち性タイプと、地面を這うようにのびる匍匐性タイプがあります。匍匐性タイプは庭のグランドカバーとしても適しています。 一度植えると木質化して小低木に生長し、ほぼ1年中収穫できるようになります。湿気を嫌うので乾燥気味に育て、とくに梅雨どきは蒸れないように収穫をかねて枝を刈り取り、風通しを良くします。 |
収穫と使用方法 | 刈り取った茎を生のままお茶や料理に使います。乾燥させる場合は、最も香りが強い開花直前に茎ごと刈り取り、束ねてつるして乾かしたあと、葉の部分をしごき取ります。 |
増やし方 | 種子・挿し技・株分け・とり木 木質化していない若い枝を挿し技にします。株分けでも増やせます。 |