Vol.17 医食同源

トライブでは今朝もそれぞれが冷たい水で心身ともスッキリと目覚め、日の出の太陽光を浴びて朝から畑仕事を心地良く楽しんでいた。大地と自然の大いなる恵みに癒され、穏やかな呼吸は新鮮な空気を隅々まで行き渡らせていた。体の中はスムーズに循環し、気持ち良くかいた汗を温冷シャワーで洗い流すと、住民たちは心を躍らせながらコミュニティ・ダイニングに集まってきた。

最近ではみんなも仁を真似て一緒に料理を楽しむようになっていた。色鮮やかなトマト、ピーマン、レッドオニオン、ニンニク、コリアンダーは細かく刻まれ、大きなボウルの中で塩コショウ、ライムの搾り汁と和えられた。好みで追加できるようにハラペーニョのみじん切りも用意されている。火加減も特別な調理技術も必要なく、大勢で楽しみながら作ることのできるこのピコ・デ・ガロ(サルサの一種)は、ポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富で、コーンチップスのディップの他にも、チキンのソテーやブリトーのソース、エンチラーダの具材などにも使えて、みんなの大好物の一つだった。サーモンは塩と砂糖と水を混ぜたブライン液にしばらく漬けたあと丁寧に水気を拭き取って、ディルとオリーブオイルをまぶし、四十度に保ったお湯で三十分間低温調理され、柔らかくしっとりとした質感に仕上げられた。新ジャガはほっこりと蒸し上げられ、ミルキーなバターやチーズ、天然塩が添えられた。スライスニンニクがオリーブオイルで熱されて香気を放つフライパンではズッキーニがじっくりと焼かれ、岩塩がぱらりと振りかけられた。トウモロコシ粉に塩を溶かしたお湯を注ぎ入れてこね、寝かせておいた生地を薄く伸ばしてフライパンでパリッとするまで焼いたら完成!

「自分で育てた野菜がこんなに美味しいなんて!それに身体中に染み渡って元気がみなぎるし、本当に毎日感動するわ!。」

ナユタが新ジャガにたっぷりのバターを乗っけて頬張りながら満足げにしみじみとつぶやいた。続いて出来立てのコーンチップスにピリッと爽やかな辛さのピコ・デ・ガロを乗っけて美味しそうに口に運んでいる。

「僕はなんといってもこのズッキーニが大好きだね。ジューシーでとても言い表せない美味さだよ!それにこのサーモンとディルの相性もバッチリだ!柔らかくて口の中でホロっと崩れる感じも本当に最高だよ。」

それぞれが喜びに顔をほころばせながら口々に感想を述べ、誰の心も体も幸せに満たされた。仁は一人一人の顔を見ながら、胸の奥の方に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。みんなが仁の料理を楽しみながら笑い合い、語り合い、また次の食卓を待ち侘びている姿は、幸福そのものだった。

「それにしても、ここでの食事は現代社会の食卓から見れば何となく質素だよね。でもずっと豊かで満足感も大きい。これって不思議だと思わない?」

「確かに。ここに来る前は朝起きたら食事して、昼になったらまた食べて、日が暮れたら用意された夜ご飯を食べて、合間にスナックとかデザートまで食べちゃって。でも、こんな満足感は感じたことなかったな。」

マナスとナユタの会話にみんなが深くうなづいていた。

「前に母さんが言ってたんだけど、現代人は食べ過ぎなんだって。狩猟採集時代の人たちだって今よりずっと動き回ってたけどこんなに食べなくても生き延びてきたんだからね。今みたいにほとんどの人がデスクワークで、子どもだって昔みたいに野山を駆け回って遊ぶこともないし、人間自体には実はそれほど多くの食べ物は必要ないんだって。一日三食食べるのはなぜか?お腹が空いているから?違う。そういう価値観や風潮だからだ。そして、そうした風潮を生み出したのは多種多様の食糧を売り込むためだし、一時お腹が膨らむだけだから、挙句、間食の習慣まで身についている。人間にはそれほどたくさんの食糧は必要ないし、消化器官を休ませる時間を持たず、一日三食に間食までして四六時中消化器官を働かせ続けていれば、当然内臓は疲労して働きは衰える。すると消化器官が担っている免疫機能にエネルギーが回らずに免疫力の低下まで招いてしまうんだ。安易に薬を飲んだり治療を受けて一時的に症状を抑えたとしても、不摂生や暴飲暴食などこれまでの習慣を改めなければ病は何度も繰り返されるどころかさらに悪化する。胃薬や鎮痛剤や抗生剤によって弱っている器官はますます痛めつけられるからね。それに、人々の食糧は狩猟から家畜に移り、個人が狩猟によってその日の糧を得るのではなく、畜産業と精肉産業によって肥育された牛や豚や鶏が屠殺、解体、小分けにパックされてそれぞれの売り場に配送され、人々の手に渡る。コスト削減と過密大量生産のためにホルモン剤や抗生剤を打たれて、動物たちはとても過酷な環境で育てられている。肉が手軽に手に入る食糧となったため、人々の生命をいただくという意識はますます遠のいているんだ。」

晴人は凛子の話しを思い出していた。琉雅があとを引き取って話しを続けた。

「でも、食品産業としては人々にできるだけ多様の食品を日々たくさん消費してほしいわけだ。そこで生まれたのがカロリー理論。食物の酸素と化合する熱エネルギーがカロリーで、これが人体のエネルギー源であり、最低限のカロリーを摂らないと栄養失調で死ぬっていう概念をこねくり上げた。でも体がカロリーをどのように燃焼するかは、飲食物の種類や体の代謝、腸内に生息する微生物種など多くの要因で異なるから、これは単体で完結する理論じゃないんだ。でもこの時代遅れの理論をベースに組み立てられた食品産業やダイエットの戦略はいまだに横行している。それに、一人一人の個性に目を向けることもなく学校でもメディアでもしっかりと朝食を食べよう、一日三食きちんと食べようとかって念入りに刷り込んでいるだろ?これは食品利権だ。正直に言えば現代人がスーパーやコンビニで手軽に購入する食品には心身が喜ぶような栄養素はほぼ皆無。それでいて化学調味料たっぷりで病みつきになるような味に仕上げられているから、習慣化しやすい。味覚がおかしくなって口には美味しく感じても体は満足しないから、どんどん食べ物を欲する。過食で病気になるか、化学調味料で病気になるか。医療業界と食品業界が結託して人々にたくさん食べてもらい、しっかりと病気になって稼がせろ、と言っているわけだ。」

琉雅の言葉には皮肉がたっぷりこもっていた。

「もしかするとここもフラクタルなのかもしれないね。何を食べるかじゃなくて何を食べないか。多種多様に出回っている食品は人間の心身に有害なだけじゃなくて、それを製造している人たち、育てている農家の人や土壌、無闇に作り過ぎた食糧の廃棄物は処理の問題もあるし、空気や水の汚染、奇形やさまざまな病気や菌の発生源にもなっているし、自然に存在する生命の多様性や生態系を侵している。それに、利権に追従する人たちによっていろんなダイエット法だとか健康法が売り出され、それに便乗して減塩だとか、糖質オフだとか、低カロリー、低脂肪などの不自然な加工食品がどんどん市場に売り出されている。ここでも権威だとか影響力のある人が荒稼ぎをしながら、誰も人体に必要かどうか、本当に安全かどうか、特に長期的に摂取して問題がないのか、真実かどうかもよく分からない情報をどんどん伝え広めているしね。」

と望芽も現状を鑑みながら、その思いを語った。

「それにおんなじタイミングで同じようなものを食べて、寝て、起きて、同じような生活をしていてもおんなじように出るものが出ない。これは一体どうしてなのかしら?」

望芽の素朴な疑問に晴人が答えた。

「だって人の外側がこれだけみんな違うのに、内側がまったく同じな訳はないんだよ。細胞や器官の働き、栄養燃費、代謝の速さ、みんな違うんだ。何の副作用もなく好きなものを何でも食べられる人もいれば、体質的または精神的な理由から特定なものを口にすることができない人もいる。ダイエット法だって、健康法だって、自分の内面を見つめて、心身の変化を感じ取り、自分に合うものを見つけていくことが大事なんだよ。」

「人間は大抵、生まれ育った環境の食習慣を受け継いでいく。だいたいは娘が母親の味を引き継いで結婚し、新しい家庭で同じような味加減や味覚を子どもたちに伝授していく。しかし、物価の上昇や増税、不安定な収入の中で、比較的安価な小麦粉などのつなぎが救世主のように現れた。小麦粉や片栗粉やパン粉などの炭水化物は、料理をカサ増ししてお腹を膨らませることはできてもそこまで栄養は多くない。そこに満足感やコクをプラスする脂肪分を大量に投入すればもう、肥満一路。食品産業と製薬、医療業界はどう見たって固く結びついている。肥満はあらゆる病気の引き金になり、さまざまな病気の治療法は、患者を健康にするものではなく、できる限り長く薬を服用し、病院に世話になるようにプログラムされているし、栄養学や食習慣、生活習慣の改善は申し訳程度に添えられているだけだ。なぜって?それぞれが真の栄養知識を身につけてきちんとした食事を摂るようになり、運動習慣を身につけて、多少の不調は食事を摂らずに消化吸収に使われていたエネルギーを治癒に回し、その辺に生えている雑草にしか見えないような草花に優れた薬効があることが多くの人に知れ渡れば、医者も病院も食品メーカーも商売上がったりになってしまうからね。こんなちっぽけな人間の体の中に何十万種類もの病気を見つけて病名をつけてちょっと脅かせば、それに対応する薬がいくらでも売れるようになるし、検査や手術でお金が取れる。病気は利権そのものなんだよ。ある抗ガン剤はわずか一グラム三億三千百七十万円もする。そんなものは必要ない、食事や運動、断食や野草茶で不調が治るなどというのが広まっては困るんだよ。」

「それに病気の症状は体が治ろうとする治癒反応であり、不調を知らせるサインなんだ。そうしたサインがなければ即死だからね。それぞれ自分が自分の主治医だし、心身をよく観察しながら入れたら出し、出したら入れる。生命は循環そのものなんだ。そういう自然治癒の療法が広まらないように、野草もエッセンシャルオイルもハーブも、食物の薬効や薬膳も、権威や影響力のある人を利用して危ない、危険などと言う風評被害を流布したり、何らかの策で販売や使用を制限したりして・・・・本当にどれだけ金の亡者なんだろうな。」

「それに肉をできるだけ多く売りたい連中にしてみれば、ベジタリアンやヴィーガンのような思想が広まっては困る。そこで、肉がいかに体に必要な栄養を含んでいるかを説き、肉を食べない人間を軽く蔑視したりもする。逆もまた然りだ。どちらも自由な選択を侵し得る。善し悪しは本来個人の自由な解釈によるもので、体質や主義や信条によって異なるものだ。
ちなみに高次元では動物の肉は食べない。彼らの魂は動物も大家族の一員であることを知っているからね。でも、幼い頃からの習慣によって、僕たちは肉を食べている。美味しいと感じているものをそう簡単に止めることはできない。でも奥深くの精神性のところではそれが罪悪感のくびきとなっていたりもする。だからといって肉を食べさえしなければ高尚だというわけじゃない。高尚であれば良いというのでもない。何が正しいかではなく、何を感じ、どのような選択をするかが大事なんだ。それに食欲は地球では三大欲求の一つとしてとても重要視されているしね。物質や税金、あらゆる支払いや生活に追われる中で、食事は多くの人々の大切な楽しみとなっている。もっとそれぞれが内面に目を向けて精神性や生まれ持った使命に没入することができれば、やりがいに満たされて胸がいっぱいになって、食欲への執着も薄れるのかもしれないがね。

とにかく誰もが今すぐできることは日頃から自分の内面に目を向けることだ。心身を気遣っていればすぐに変化を感じ取ることができるし、本当に必要なものなのか、安全なものなのかはすぐに見抜くことができるようになる。まず大前提として、
・病気は食べ物の組み合わせ、質、量と、ストレスから生じる。
・食事は体内の各器官や細胞、菌が滞りなく働いて、心身の快活を保つための栄養である。
・食べる楽しみと自然の恵みへの感謝を忘れず、循環と排泄を心がける。
・食事のことに限らず、感情の動きも意識する。
・負の感情がもたらす災いを知ること。
・適度に太陽光を浴び、上質な水を飲み、定期的な深呼吸や瞑想、質の良い睡眠の重要性を認識すること。
これらは頭に入れておいてほしいね。

それから体の仕組みについても知っておくべきだ。みんな体のことについては医者の専売特許のように思っていて、専門の医学知識なんて難しいと敬遠しているけど、車やファッションなんかよりもずっと生命に関わるとても重要な部分を丸投げしてはダメだ。医学部は学費も高く、頭の良いエリートが何年もかけて学んでいるものだし、一般人の我々には分かりっこないと、あらゆる方面からそんな風に思わせる働きかけがなされているけどね。医者は病気の専門家で製薬会社の営業マンなだけで、健康の専門家じゃない。だって人々が健康になってしまったら自分たちの収入源がなくなってしまいかねないからね。

でも医者が悪いわけじゃないんだ。多くが初めは純粋に人の病を治したい、世界から病気を根絶したいと感じて医学を志したんだ。もちろん権威や高収入へのあこがれもあっただろうが、医者の実際の仕事が製薬業界が描いたシナリオだなんて知らなかったんだ。莫大な資産と影響力を持つ製薬業界が医学部のテキストを作り、医学会の上の方とつながっていて、医者はそうしたテキストやガイドブックに沿って薬を処方するのが仕事で、そうしなければ医学会を追放されかねない。医者たちは何年もかけて学んだ学費の莫大な奨学金返済のために勤務や学会、論文など、時間外労働に追われている。少し前にも二十七歳医師、過労自殺という痛ましい出来事があった。彼は母子家庭で育ち、母の苦労に報いるために医師となって三年、奨学金の返済に追われ、業務と時間外の労働時間にカウントされない自己研鑽で三ヶ月以上休日がなかった。疲労が溜まり、口数は減り、表情は乏しく、顔色が悪くなっていた。しんどいけど、休んでいたら仕事が回らないと呪文のように繰り返し唱えていたそうだ。心配した母は、休職を提案したが、そんなことしたら仕事がなくなると、一瞬怯えたような顔を見せた。ある日、学会の資料作成が間に合わないとひどく取り乱した。母にはどうすることもできなかった。医者になるという夢を叶えた息子を誇らしく思っていたし、そんな息子が医者を辞めることになったら?と想像すると・・・・もしかすると多少周りの目も気になったかもしれない。息子の様子に強く休職をすすめることができず、その翌日のことだった。

人間は一人一人外見同様、いや、それ以上に体の中は複雑に異なっているんだから、医者が僕たちの体の専門家にはなり得ない。最低限、自分の消化器官のことには気を配るべきだ。生命の体に備わっている消化器官はとても高性能で、消化器官の入り口から取り込む限りは消化、分解、判別を自動で行ってくれているんだ。でも最近の多くの人の食生活は体にとって驚くほどの超ブラック企業状態を招いている。それでも僕たちの体は二四時間休みなしで働き詰めだ。口、食道、胃、十二指腸、小腸、肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、脾臓、結腸、直腸、肛門、各器官が僕たちの飲食物に合わせて消化液や酵素、ホルモンを自動的に分泌している。その材料となる栄養素をきちんと摂れていなければ、それでも始めはなんとか細胞などの素材をやりくりしていても、徐々に働きが滞り、消化、吸収、代謝が悪くなる。それぞれの器官を一ヶ月ごとに順番に浄化したり、一日一〜二食にして消化器官を休ませ、他の重要な仕事にエネルギーを使えるようにしたり、ドライファスティングや断続的断食などによって脂肪細胞や病気の細胞、ガン細胞、ゾンビ細胞などの不要な細胞をクリーンアップすることもできる。が、まずは、食べ過ぎが多くの病気の根源にあること、医療や食品産業の癒着を知ること、そして、不調が起きたからといってすぐに病院に駆け込んだり、病名をつけられて処方された薬を盲信して飲まないことだ。

少しだけオープンマインドで周りを見渡してみてほしい。
・即死しない病気に罹患させて長生きさせ、長期的に医療機関に通って薬を飲ませ続ける。
・白衣を着た医者の言うことを盲信し、健康診断や、定期受診、不要な検査や手術を何も考えず言われるがままに受ける。
・インターネットやスマホの普及によって誰もがあらゆる情報にアクセスできるようになったが、そうした情報が検閲済みのものであることを認識せず、統制され、偏った情報に誘導されている。
・日々の生活に追われる中で、動画やテロップ、短文によってスマートにまとめられたニュースを見ることで情勢を掌握したつもりになり、その裏側や真実に目を向けられずにいる。
・SNSや動画投稿サイトから次から次へと自動的に送られてくる『オススメ』によって注意力は散漫になり、自分から調べたり長文を解読する力が低下している。
・金や利権に懐柔されているとも知らずに権力者や権威、影響力のある人の流すメディアの情報を鵜呑みにする。
・広く世界にアンテナを広げてそうした情報の裏側を読み解こうとしている者を一笑して陰謀論者扱いし、別の視点や新たな見聞を広めようとしない。

身の回りでこういう状況を感じ取ることができないないだろうか?」

みんな琉雅の話しや問いかけに、過去の記憶や周りの人たちのことを思い巡らせていた。

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