植物がないと人は生きていけない!
生き物は、何らかの方法で生きていくためのエネルギーを得なければなりません。動物と植物のもっとも大きな違いは、動物はエネルギー源である食物を食べなければならないのに対し、植物は光合成によって自ら栄養素を作り出せる点にあります。
エネルギー源だけではなく、人の細胞膜を構成するリノール酸などの必須脂肪酸も植物から得なければなりませんし、生理機能を正常に保つビタミンも、人は自分で作り出すことはできません。また、植物は光合成によってCO2(二酸化炭素)を吸収し、酸素を供給してくれます。さらに、植物が作り出す成分は、人に美容と健康効果までももたらしてくれます。
つまり、食物を作り出せるのは植物だけであり、動物は植物に依存して生きているのです。
植物は逃げられない!
動物には移動手段としての足があり、骨格や筋肉も発達しているため、生きるためにより良い環境に移動したり、エサがなくなればエサを求めて住処を変えたりします。
一方、植物は光合成という手段をもつため、エサを求めて移動する必要はありませんが、地に足がついて動けないため、天候などの変化や敵(植物を食べる動物や病原菌など)に襲われたときに自らを守らなければなりません。
たとえば、乾燥が激しいときには、植物は根から水分を吸い上げ、葉から蒸散させて湿度を高めます。また、自らを守る術として、物理的手段としてはバラのトゲなどがあり、化学的手段としては揮発性の抗菌物質、つまり精油(エッセンシャルオイル)を漂わせるなどの方法をとります。
このように、植物は環境変化に適応する能力に優れ、また、自らを守るための数々の生体防御機能を身につけています。
3つの植物パワー
1.多様な栄養分を自ら作り出す
植物が光エネルギーを用いて吸収したCO2(二酸化炭素)と水分から、さまざまな有機化合物を作り出すことを光合成といいます。植物は、太陽の光とCO2、水分があれば生きていけることから独立栄養生物と呼ばれます。これに対して動物は植物を食べなければ生きていけないため、従属栄養生物と呼ばれます。
植物は光合成によって、最終的には人のエネルギー源となる炭水化物・脂質・タンパク質の三大栄養素を生合成し、さらに人の生理機能を正常に維持するビタミンを生合成します。また、根からカルシウムや鉄などのミネラル(無機質)を吸い上げるとともに、第6の栄養素といわれる食物繊維(ダイエタリーファイバー)を生合成します。
さらに、植物は自らの生体防御機能を司る植物化学(フィトケミカル)成分をも生合成するのです。そして、この第7の栄養素ともいうべき植物化学成分こそが、人に美容・健康効果をもたらす自然の薬(ナチュラルメディスン)の本体なのです。
2.強力な紫外線から身を守る
植物は光合成によって生きているため、紫外線を浴びることが宿命づけられています。このとき、紫外線は酸素にエネルギーを与え、活性酸素と呼ばれる反応性や攻撃性に富む物質を生み出すことになります。
活性酸素が少ないうちは、それらが菌やウイルスを破壊するため、植物にとっても都合がよいのですが、量が多くなると、植物自らの細胞にダメージを与える(酸化傷害という)ことになります。
植物はなぜそのような過酷な状況の中でも生き抜いていけるのでしょうか?その秘密は、植物が生合成する植物化学成分にあります。
フラボノイドやタンニン、それにビタミンなどは、抗酸化作用(酸化を制御する働き)を有していて、細胞を守ってくれるのです。
しかも、ビタミンCとフラボノイド、あるいはビタミンCとビタミンEといった相乗効果を発揮します。これらは『抗酸化ネットワーク』と呼ばれています。
一般的に、根よりも地上部の方が抗酸化成分が多く、また、熱帯の植物のほうが抗酸化作用が強いのは、植物が紫外線から実を守るために進化したためです。
3.襲いかかる菌や昆虫から身を守る
植物は根を張っているため、生育環境に菌が増殖したり、昆虫による食害を受けても、動物のように逃げ出すことはできません。こうした場合でも、精油やタンニン(渋み成分)、苦味質などの植物化学成分が、生体防御に役立っています。
精油は、強力な抗菌作用をもち、かつ揮発性であるため、環境を浄化することができ、また、忌避作用によって昆虫を遠ざけることができます。また、植物は昆虫に襲われると、ある種の揮発性物質を揮散して、仲間の植物に防護を呼びかけることができます。その信号を受けた植物は、タンニンや苦味質の生合成を高めて食害を免れるのです。昆虫が去ってしまうと、警報は解除されます。
さらに、最近の研究によると、植物が昆虫に襲われると、ある種の揮発性物質を揮散して、その昆虫の天敵(捕食者)をおびき寄せ、結果として誘引された天敵に害虫を防除させるという三者間のコミュニケーションも報告されています。
森の中ではフィトンチッド(揮発性抗菌物質)が漂い、植物化学成分を情報伝達に利用するなど、植物が身を守るための高等戦術が展開しているのです。
植物化学(フィトケミカル)成分の種類と機能
植物化学成分は、その分子構造や物理・化学的性質により、いくつかのグループに分類できます。
ここで大切なことは、『抗酸化ネットワーク』に相乗効果があるように、植物化学成分を摂取する際は、できるだけ『丸ごと』摂取したほうが、有効性と安全面の両面でよいということです。
たとえば、市販のサプリメントでビタミンCを単体で摂るよりも、ビタミンCとその吸収と効用を高めるフラボノイドが一緒に入ったローズヒップを摂取する方が、相乗効果を得られます。
ところで、最近では野菜や果物の美容と健康効果が研究され、さまざまな機能を発揮する植物化学成分(この場合は、フィトニュートリエント(=植物栄養素)と呼ばれることがあります。)が科学的にも立証されつつあります。
欧米ではブロッコリーやパプリカ、ブドウなどに含まれるポリフェノールやカロテノイド、それに含硫化合物が注目を集めていますが、この場合も単一成分ではなく、野菜や果物といった形で『丸ごと』摂取することをおすすめします。
アルカロイド<水溶性>
窒素原子を含む塩基性の有機化合物で、通常強い苦味があります。
アルカロイドを含む植物は、中枢(脳、脊髄)性の鎮静・鎮痛・興奮作用など激しい作用をもたらすため、薬用または有毒植物であることが多く、また、アルカロイドは医薬品や医薬品の原料に用いられます。
コーヒーやマテに含まれるカフェインやテオフィリン、パッションフラワーに含まれるハルマンやハルモール、ケシに含まれるモルヒネ、コカに含まれるコカインなどが知られています。
カロテノイド<脂溶性>
カロテノイドは、黄・橙・紅色の脂溶性の天然色素で、炭化水素であるカロテン類と分子中に酸素を含むキサントフィル類に分類されます。
カロテン類はニンジンやカレンデュラのカロテンやトマトのリコピンなどです。キサントフィル類は温州ミカンのクリプトキサンチンやコーンのゼアキサンチン、ダンディライオン(花)のルテインなどです。このうち、カロテンやクリプトキサンチンは体内で必要に応じてビタミンAに変換されるため、プロビタミンAと呼ばれます。一方、ビタミンAに変換されないカロテノイドには、強力な活性酸素消去能や発がん抑制作用が報告されています。なお、サフランは水溶性の黄色カロテノイド色素であるクロシンを含みます。
含硫化合物(イオウ化合物)<難溶性(一部は水溶性)>
含硫化合物はイオウを含む化合物の総称で、ガーリックなどのユリ科植物の刺激臭である芳香成分や、ブロッコリーなどのアブラナ科植物の辛味成分がこれにあたります。血小板凝集を抑制したり、肝解毒酵素の働きを高め、発がん物質を無毒化して体外に排出するなどの働きがあり、これにより高血圧を改善し、抗がん作用をもたらします。
具体的には、ガーリック、タマネギ、ニラに含まれる硫化アリルのアリシンや、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、キャベツ、ダイコン、ワサビに含まれるグルコシノレート、それにブロッコリースプラウトに多く含まれるイソチオシアネートのスルフォラファンなどが注目を集めています。
サポニン<難溶性(一部は水溶性)>
サポニンはトリテルペンアルコールの配糖体で、非糖部をサポゲニンと呼びます。サポニン(saponin)の語源がsapo(石けん)であることから分かるように、サポニンを含むハーブは水に沈めたときに石けん様の持続性の泡を発生させ、界面活性作用をもつため、古くは洗濯料や洗髪料に用いられました。サポニンは鎮咳・去痰・消炎・強壮作用などをもたらします。
リコリスに含まれるグリチルリチン、朝鮮人参に含まれる各種のジンセノシド、マレインに含まれるバーバスコサポニンなどが知られています。
植物酸(有機酸、果実酸)<水溶性>
植物酸は酸味をもつ水溶性の成分で、レモンに含まれるクエン酸は酸味によって食欲を増すとともに、エネルギー代謝に関わり疲労を回復します。また、腐敗菌の増殖を抑え、便秘を改善し、キレート作用(からだに吸収しにくいミネラルを包み込んで、からだに吸収しやすい形に変える働きのこと)によりカルシウムなどのミネラルの吸収を高めます。
植物酸のうち水酸基(ヒドロキシル基)とカルボキシル基をあわせ持つクエン酸や、リンゴに含まれるリンゴ酸、サトウキビに含まれるグリコール酸などはアルファヒドロキシ酸と呼ばれ、角質のピーリング(除去)に用いられます。
このほかの植物酸としては、クランベリーに含まれるキナ酸やハイビスカス酸が知られています。
ステロール<脂溶性>
ステロールは、ステロイド骨格をもつステロイドアルコールの総称で、フィト(植物)ステロールとしてはシトステロールやスティグマステロールが知られています(一方、動物ステロールにはコレステロールが、菌類のステロールには日光によりビタミンDに変換されるエルゴステロールがあります)。フィトステロールは腸管からのコレステロールの吸収を抑え、脂質異常症(血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が多すぎたり、HDLコレステロールが少なくなる病気)や良性前立腺肥大症の改善に有効です。
アーティチョークやダンディライオンにはタラキサステロール、ネトル(根)にはシトステロール、ソウパルメットにはシトステロールやスティグマステロール、パンプキンシードにはスティグマステロールが含まれています。
精油(エッセンシャルオイル)<脂溶性>
精油は、植物が生合成した揮発性の芳香物質を蒸留によって留出させたもので、数百におよぶ多数の精油成分によって構成されています。精油成分の分子構造と活性(作用や安全性)は、おおむね相関し、精油は抗酸化作用や抗菌作用とともに、鎮静・鎮痙・消炎・鎮痛・抗不安・去痰など多様な作用をもたらします。
なお、精油成分は脂溶性かつ分子量が小さい(おおむね300以下)ため経皮吸収が可能であり、アロマテラピー(芳香療法)では、この性質を利用してオイルマッサージが行われます。
アロマテラピーでは、ラベンダー、ローマンカモミール、ユーカリ、ベルガモット、ティーツリーなどの精油がよく使われます。
多糖類(グリカン)<難溶性(一部は水溶性)>
炭水化物のうち多数の糖が化学的結合によって鎖状になった高分子の重合体で、結合の仕方により水溶性と不溶性に、また、デンプンのように人が消化、吸収できるものとできないもの(食物繊維)に分かれます。
多糖類の例としては、アラビアゴムのような植物ゴムや、リンゴなどに含まれるペクチン、マシュマロウなどに含まれる粘液質や、マイタケやオーツに含まれるベータグルカンのような免疫賦活作用をもたらす抗腫瘍多糖も知られています。
果糖などの単糖類が数十の単位で連なったイヌリンなどのオリゴ糖はダンディライオンやバードック、チコリなどの根に含まれ、ビフィズス菌の増殖を促し、腸内環境の改善に役立ちます。
タンニン<水溶性>
タンパク質や塩基性物質と強い親和性をもち、難溶性の沈殿を形成する植物起源のポリフェノール(ベンゼン環等の芳香環に複数の水酸基がついた化合物)の総称をいいます。タンニン(tannin)の語源はtanning(皮をなめすこと)であることからもわかるように、タンパク質として反応して収れん作用や止瀉(下痢止め)作用をもたらします。
ラズベリーリーフやザクロに含まれるエラグ酸、グリーンティーに含まれるエピガロカテキンガレート、ウィッチヘーゼルに含まれるプロアントシアニジン、シソ科タンニンとして知られるロスマリン酸などが知られています。
苦味質<水溶性>
苦味を感じる一連の化合物で、その成分はアルカロイドやテルペノイド、フェノール性化合物などさまざまです。
苦味成分は唾液や消化液を分泌させ、消化促進・強肝・利胆・緩下作用をもたらす一方、精神面にも賦活効果をもたらします。苦味健胃薬は苦味質のこうした効果を活かした処方といえます。
ダンディライオンに含まれるタラキサシン、アーティチョークに含まれるシナリンやシナロピクリン、サフランに含まれるピクロクロシン、バードックに含まれるアルクティインが知られています。
粘液質<水溶性>
植物に含まれる粘りのある液体で、おもに各種の多糖類からなります。
粘液質は水分を吸収するとゼリー状に膨潤し、消化管や泌尿器、呼吸器の粘膜を覆って痛みをやわらげ、治癒を促します。また、粘液質は熱を保持するため、温湿布剤やパップ剤としても用いられます。
粘液質は、マシュマロウ、ウスベニアオイ、バードック、コルツフット、サイリウム、フラックスシード、アイスランドモス、マレイン、リンデン、エルダーフラワーに含まれます。
配糖体(グリコシド)<水溶性>
グルコース(ブドウ糖)などの糖類と糖以外の生理活性の強い成分が化合物をいい、糖以外の部分をアグリコン、またはゲニンと呼びます。
配糖体は強心・利尿・鎮咳・瀉下・去痰などの薬理作用をもたらします。アグリコンはしばしば水に難溶で吸収されにくく、毒性の強いものもありますが、糖を配置することで水溶性や吸収性が増し、低毒化されます。
ヒースに含まれるアルブチン、マレインに含まれるアウクビン、デビルズクロウに含まれるハルパゴシドや各種のフラボノイド配糖体が知られています。
ビタミン<A・D・E・Kは脂溶性 B群・Cは水溶性>
カロテノイド色素のうち、ニンジンやカレンデュラに含まれるカロテン類のカロテンや、温州ミカンに含まれるキサントフィル類のクリプトキサンチンは、摂取後に体内に必要に応じてビタミンAに変換されるため、プロビタミンAと呼ばれます。
ローズヒップや赤パプリカ、ブロッコリーにはビタミンCが多く含まれ、とくにローズヒップはレモンの20〜40倍のビタミンCを含みます。小麦胚芽油やグリーンナッツ(インカインチ)油、大豆油などの植物油は、ビタミンEを豊富に含みます。
ビタミンAは目や皮膚粘膜を正常に保ち、ビタミンCはシミなどの色素沈着の予防やコラーゲン合成に関わり、ビタミンEは動脈硬化性疾患や内分泌系の不調を改善します。
フラボノイド<水溶性(一部は難溶性)>
フェニルクロマン骨格(C6-C3-C6構造)を基本とする芳香族化合物の総称で、遊離、または配糖体として植物に広く分布します。構造の違いにより、イソフラボン、アントシアニジン、カテキン、カルコンなどのサブグループに分かれ、発汗・利尿・鎮静・鎮痙・毛細血管保護・キレート形成(からだに吸収しにくいミネラルを包み込んで、からだに吸収しやすい形に変える働きのこと)など、さまざまな作用をもたらします。なお、構造により水に溶けにくいものもあります。
フラボノイドとしてはカレンデュラに含まれるクエルセチン、ジャーマンカモミールに含まれるアピゲニンやルテオリンが、フラボノイド配糖体としてはエルダーフラワーに含まれるルチンやクエルシトリン、パッションフラワーやホーソン、それにチェストベリーに含まれるビテキシンなどが知られています。
ポリフェノール<水溶性>
ベンゼン環等の芳香環の水素原子が水酸基(ヒドロキシル基)に置換された化合物をフェノール化合物と呼び、水酸基を2つ以上もつ場合はポリフェノール(多価フェノール)といいます。したがって、ポリフェノールはある種のフラボノイドやイソフラボン、カテキンやリグナン、それにフラボノイドの重合体であるOPC(オリゴメリックプロアントシアニジン)などの総称といえます。
ポリフェノールは植物にとって自らを紫外線による酸化傷害や病原菌から守るための生体防御成分であり、人に対しては抗酸化(活性酸素消去)、消炎、抗菌、アレルギー反応抑制、動脈硬化予防、糖吸収(血糖上昇)抑制、発がん抑制などの機能をもたらします。
ミネラル<水溶性>
ハーブは、各種のミネラルの補給にも役立ちます。
カリウムはネトル、エルダーフラワー、クミスクチン、コーン、ハイビスカス、マテ、ダンディライオン(葉)に、鉄はネトル、オーツ、マルベリー、ハイビスカス、マテに、亜鉛はマルベリー、オーツに多く含まれます。また、カルシウムはマルベリー、ネトル、マテに、ケイ素(シリカ)はスギナに飛び抜けて多く、オーツやネトルにも含まれます。
カリウムは利尿作用をもたらし、鉄は造血に役立ちます。亜鉛は、味覚・嗅覚などの感覚機能や性腺・免疫機能を正常に保ちます。カルシウムやケイ素(シリカ)は髪・爪・歯・骨や結合組織を支えます。
油脂<脂溶性>
油脂は、1分子のグリセリン(グリセロール)と3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドで、マカデミアナッツ油や月見草(イブニングプリムローズ)油などの植物油と、カカオ脂やシア脂など常温で固体の植物脂に分かれます。なお、ホホバ油は脂肪酸と脂肪アルコールとのエステルで、油脂ではなくロウ(ワックス)に属しますが、常温で液体のため、慣例的にホホバ油と称します。
植物油脂は一般的に不飽和脂肪酸を多く含み、軟膏剤やマッサージオイル剤の基材として使われ、また脂肪酸バランスの調整を目的に内服されます。アルファリノレン酸などのオメガ3系脂肪酸の供給源にはグリーンナッツ(インカインチ)油、ヘンプ(麻の実)油、フラックスシード(亜麻仁)油が、オメガ6系脂肪酸であるGLA(ガンマリノレン酸)の補給には月見草(イブニングプリムローズ)油が使われます。
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