vol.07 セラピー等級のエッセンシャルオイル

オイルの純度を決める要因のひとつは、その科学組成です。そして、科学組成は、植物のどの部分からオイルを抽出するのか、土壌の状態、肥料(有機肥料か化学肥料か)、地理的な位置、気候、高度、収穫方法、蒸留の工程など、実に多くの条件が影響します。一例をあげると、一般的なタイム(Thymus vulgaris)は、生長、気候、高度などの条件によって何種類かの異なったケモタイプ(同じ植物種で、生化学的特徴が異なっているもの)に分かれます。タイムのあるケモタイプは、蒸留された季節によってチモール含有量が増えます。収穫期が遅くなればなるほど(たとえば盛夏から秋にかけて)蒸留されたオイルにはチモールが多くなります。

 

 

適当な条件で耕作すれば、たとえばThymus vulgars(タイム)の特定のケモタイプから良質のチモールを安定して採取することができます。一方、同じ山の斜面であっても野生のものを採取した場合は、リナロールやオイゲノールのタイプのタイムが得られる場合もあります。

 

 

たとえば、トルコのイズミールにあるエーゲ大学植物学部の研究によると、100平方フィートの円周内に生育しているOreganum compactum(オレガノ)のうち、あるものはガラバクロールが豊富であり、またあるものは別の成分が多かったということです。野生の植物を採取すると、たとえそれが同じ斜面のものであっても、同じケモタイプであるという保証はありません。

 

 

セラピー等級のエッセンシャルオイルを生産するカギは、植物の中に含まれる完璧なバランスのとれているアロマ化合物をできるだけそのままの状態でエッセンシャルオイルの中に封じ込めることです。アロマ化合物は壊れやすく、高温・高圧下では簡単に破壊されてしまいます。銅やアルミニウムのような化学反応を起こしやすい金属に触れた場合も同様です。したがって、セラピー等級のエッセンシャルオイルは必ずステンレスの蒸留装置をつかって低温・低圧で蒸留される必要があります。

 

 

材料となる植物は、除草剤その他の農薬を含まないものを選びます。これらの化学物質は蒸留中にエッセンシャルオイルと反応し、有毒な化合物を生成する可能性があるからです。また、多くの農薬は油に溶けるので、エッセンシャルオイルに混じってしまうこともあります。

 

 

いくつかのエッセンシャルオイルの主要成分や香りは、実験室などで模倣合成することができます。しかし、これらの合成されたオイルには治療効果がないだけでなく、ときには危険なことさえあります。それはなぜでしょうか?通常エッセンシャルオイルには数百もの異なった化学成分が含まれており、それらがバランスを取り合って複合的にオイルの重要な治療効果に寄与しているからです。さらに、多くのエッセンシャルオイルには試験室などでは合成が不可能な分子や異性体が含まれています。

 

 

ひとりひとりに合ったホリスティックヘルスケア(身体・感情・精神・スピリチュアル その人全体のバランスを調和する)の領域でエッセンシャルオイルの力を理解し始めると、可能な限り最も純粋なエッセンシャルオイルを使用する必要があることが分かります。低品質なオイルや不純物混合されたオイルは、治療に捗々しい効果がないばかりか、有毒なことさえあります。このため、オイルを得るプロセス全体を最初から最後まで慎重に見極めなければなりません。純粋なエッセンシャルオイルは当然高価なものですが、ホリスティックなケアを目指すのであれば、これに代わるものはありません。

 

 

多くの精油会社は、どのようなプロセスを経て抽出されたかも不明な業者から購入したり、基準を満たす経験のない業者から購入したものに『セラピー等級(治療グレード)』というラベルをつけて販売していますが、ヨーロッパでは、一定品質のエッセンシャルオイルに不可欠な化学特性や主成分を定めた基準が確率されています。

 

 

セラピー等級のオイルを見分けるために

最も信頼できるエッセンシャルオイルの品質の指標であるAFNOR(フランス規格協会)やISO(国際標準化機構:AFNOR規格を取り入れたセラピー等級のエッセンシャルオイルの基準を設定)による厳格な基準では、化学組成や香りの良く似たセラピー等級のエッセンシャルオイルと基準に満たないオイルを区別しています。

 

 

AFNORの基準は、政府公認の植物化学者エルベ・カサビアンカ博士の率いるチームが、いくつかの分析機関とともに作り上げたものです。

 

 

2000年、カサビアンカ博士がヤングリビング社のエッセンシャルオイルの指導のために訪米した時に、これらの基準が北アメリカにはじめて導入されました。博士の力で、ヤングリビング社の化学試験室とGSIクロマトグラフィー装置は、ヨーロッパの基準に適合するように設定されました。

 

 

カサビアンカ博士は、エッセンシャルオイルを治療用とみなすには、オイルの主要成分が一定の割合で含まれていなければならないことを認め、フランス政府がエッセンシャルオイル分析機関に認定した中央分析研究所など、多くの化学者や医師の研究を取り入れました。

 

 

その結果、たとえばセラピー等級のフランキンセンスやラベンダーに分類されている多くのオイルが、実際にAFNOR基準に合致するか否かをチェックできるようになりました。ある成分の含有量が多すぎたり少なすぎたりすれば、そのオイルはAFNORの認証を受けることができません。

 

 

AFNOR規格では、Lavandula angusutifolia(真正ラベンダー)のリナロール含有量は25〜38%、酢酸リナリルの含有量は25〜34%と定められています。オイルの指標化合物が特定の範囲内であれば、セラピー等級のエッセンシャルオイルの認定が受けられます。

 

 

一般的な規則として、あるエッセンシャルオイルについて、2つまたはそれ以上の指標成分が定められた範囲内になければ、そのオイルはAFNORの基準を満たすことができません。比較的高品質なオイルであったとしても、セラピー等級のエッセンシャルオイルとは認められないのです。

 

 

セラピー等級のエッセンシャルオイルと、セラピー等級でないオイル、AFNOR認証のないオイルとは何がちがうのでしょうか。フランスのある地方で生産されたラベンダーオイルは、別の地方で育ったものとは微妙に化学組成がちがい、結果として基準を満たさない場合があります。緑が濃すぎるラベンダーから蒸留されたオイルは、カンフルの濃度が0.5%ではなく1.0%であるというように過剰になります。あるいは、収穫時の気象条件によってlavandulolの濃度が低すぎることもあります。

 

 

ラベンダーのエッセンシャルオイルのガスクロマトグラフィーによる化学組成をAFNORの基準と比較すれば、本当のラベンダー(真正ラベンダー)と多くのラバンジン(交配ラベンダー)を見分けることができます。通常ラバンジンのカンフル濃度は高く、lavandulolはほとんど含まれないため、容易に見分けることができるのです。しかし、タスマニア産のラバンジンからとれる天然のエッセンシャルオイルのカンフル濃度は低く、本物のラベンダーの化学組成とよく似ています。高解像度のガスクロマトグラフィーを用いて、このタスマニア産ラバンジンの化学的な分析指紋をAFNOR基準の本物のラベンダーと比較することによってはじめて、交配種を見分けることができます。

 

 

現在のところ、エッセンシャルオイルがセラピー等級であることを証明してくれる公的な機関はありません。セラピー等級のオイルであるという唯一の証明は、それがAFNORもしくはISOの基準に合致しているかどうかです。

 

 

北アメリカ大陸においては、ヤングリビング社のように自社のエッセンシャルオイルがAFNOR基準に適合するよう、ヨーロッパ政府公認の分析化学者の指導を受けた生産者はほとんどありません。

 

 

アメリカでは、エッセンシャルオイルを正しく分析するための設備と方法を備えた会社はまれで、大多数の試験所には、合成化合物用の設備しかなく、天然のエッセンシャルオイルの分析はできません。ヤングリビング社では、エッセンシャルオイル用の分析機器を使用し、エッセンシャルオイル分析の「黄金律」と広く認められているヨーロッパの試験基準を満たすための努力を重ねてきました。また、ヨーロッパの公認試験所と同じ基準で分析機器を使用するだけでなく、より徹底した化学分析を行うために化学分析資料の充実を図ってきました。

 

 

エッセンシャルオイルをガスクロマトグラフィーで正確に分析するには複雑な作業が必要で、試験溶液、カラム内径、カラムの長さ、加熱室の温度などが特定の指標内になければなりません。フランスかトルコでガスクロマトグラフィーの分析手法の訓練を積んだ者でなければ、エッセンシャルオイルの正しい試験方法を理解するのはむずかしいのです。

 

 

たとえば、カラムの長さは少なくとも50〜60メートル必要ですが、アメリカの試験所はほとんどどこでも30メートルのカラムを使っており、エッセンシャルオイルの成分のすべてを分離するには短すぎます。30メートルのカラムは合成化合物の分析やビタミン、ミネラル、ハーブなどの指標化合物を分析するには適していますが、エッセンシャルオイルにみられる天然化合物の複雑なモザイクを分析するには短すぎるのです。

 

 

長いカラムを使うと、二液相分配が可能になり、化合物の分離を促進することで、非常にわずかの割合で含まれる成分を確認することができます。長いカラムがなければ、これらの分子を確認することは非常にむずかしく、特に化学的によく似た物質同士や指標化合物に似ている場合は見分けるのが困難です。

 

 

ガスクロマトグラフィーはエッセンシャルオイルを解剖するすばらしい道具ですが、限界もあります。エッセンシャルオイル化学における第一人者のひとりであるブライアン・ローレンス博士は、ガスクロマトグラフィー分析だけでは天然化合物と合成化合物を見分けることが困難な場合もあると述べています。仮に純粋なラベンダーに合成の酢酸リナリルが添加されたとしたら、ガスクロマトグラフィーでは単に酢酸リナリルがあると分かるだけで、その化合物が合成か天然かを見分けるのは事実上不可能です。キラル分離用のカラムを加えることではじめて、合成オイルと天然オイルの識別が可能になり、同じ化合物の分子構造的な変種を見分けることができるのです。

 

 

したがって、オイルの分析は、ガスクロマトグラフィーのチャートを読み取る訓練を受けた化学者が、オイルに含まれる化学物質の指紋をすべて調べ、さまざまな化合物が互いに関係し合ってどのように働くのかを測定しながら、オイルの純度と効能を判定します。また、ある化合物が別の化合物よりも多量に含まれるときには、そのオイルが不純物混合されたものか純粋なものかを決める重要な手がかりになります。

 

 

ヤングリビング社は、製品に使用するすべてのオイルについて、その都度中央分析研究所もしくはアルバート・ヴィエイユ研究所のテストを要求し、最高の品質であることを確認しています。どちらもセラピー等級のエッセンシャルオイルの試験をする資格をもった化学者が、AFNORの基準で試験をしている機関です。

 

 

最高品質のエッセンシャルオイルの供給が減り、需要が爆発的に増加するにしたがい、エッセンシャルオイルの不純物混合はますます一般化しています。これらの増量されたエッセンシャルオイルはアメリカのアロマテラピー全体を危機に陥れ、多くの人々の安全を脅かしかねないものとなっています。

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました